2010年リリースのアルバム「BAND ON THE RUN」から「アーカイヴ・コレクション」を開始したポール・マッカートニーは、2011年にはアルバム「McCARTNEY 」とアルバム「McCARTNEY U」を、2012年にはアルバム「RAM」を、2013年にはライヴ・アルバム「WINGS OVER AMERICA」を、2014年にはアルバム「VENUS AND MARS」とアルバム「WINGS AT THE SPEED OF SOUND」を、2015年にはアルバム「TUG OF WAR」とアルバム「PIPES OF PEACE」を、それぞれMPL/ヒア・ミュージック/コンコードから、とんとん拍子でリリースしてゆきます。ところが、ヒア・ミュージック/コンコードからキャピトルへ戻ってからは、2017年にアルバム「FLOWERS IN THE DIRT」を、2018年にアルバム「WINGS WILD LIFE」とアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」と「WINGS 1971-1973」を、2020年にアルバム「FLAMING PIE」ときて、其の後は2024年2月現在に、まだリリースされていません。
2017年からは、本隊であるビートルズのアルバム「SGT. PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND」を皮切りに50周年記念盤がリリースされていて、毎回、豪華本の序文をポールが担当しているだけではなく、色々と関わっていると思われますので、キャピトルに戻ったタイミングとも合っていて、また「ビートルズで盛り上がっている時に、ポールの旧作も新作もいらないんだよ」などと云われているのかもしれません。其の辺が呑気にソロ・アルバムやライヴ盤を出せているリンゴ・スターとは違います。何せ「ビートルズの音楽」とは、即ち「ポール・マッカートニーの音楽」だからです。ソレはライヴで披露出来るビートルズ・ナンバーの数でも示されていて、ポールは88曲で、リンゴは12曲なのです。そんなポールなので、近年にはオリジナル・ロック・アルバムのリリースにも間隔が空く様になりました。
さて、2011年10月3日(英国・MPL/デッカ)・10月4日(米国・MPL/ヒア・ミュージック/コンコード/Telarc)に、ポール・マッカートニーはクラシック・バレエ曲集「PAUL McCARTNEY'S OCEAN'S KINGDOM」をリリースしました。これまでポールは、1991年リリースの「PAUL McCARTNEY'S LIVERPOOL ORATORIO」、1997年リリースのアルバム「PAUL McCARTNEY'S STANDING STONE」、1999年リリースのアルバム「WORKING CLASSICAL」、2006年リリースのアルバム「ECCE COR MEUM」のクラシック・アルバムがあって、5年ぶり5作目となりました。ニューヨーク・シティ・バレエ団に依頼されてポールが書き下ろした四楽章の作品で、ジョン・フレイザーのプロデュースで、ポールとジョン・ウィルソンが編曲して、ジョン・ウィルソンの指揮でロンドン・クラシカル・オーケストラが演奏しています。
内容は、1「MOVEMENT 1 OCEAN'S KINGDOM」、2「MOVEMENT 2 HALL OF DANCE」、3「MOVEMENT 3 IMPRISONMENT」、4「MOVEMENT 4 MOONRISE」の、四楽章で56分33秒です。ポールのクラシック・アルバムで最も聴き易いのは「WORKING CLASSICAL」ですが、ソレはリンダ・マッカートニーに捧げた既発曲をクラシックに編曲した楽曲が中心だったので、新作としては此の「PAUL McCARTNEY'S OCEAN'S KINGDOM」が最も親しみ易いアルバムです。ポールも5作目と云う事でクラシック作品の作曲にも慣れてきた様子ですし、ポールらしいメロディが含まれる楽曲で、サー・ジョージ・マーティンからの影響も随所に伺える作品となっております。それにしても、シルク・ドゥ・ソレイユの「LOVE」と云い、此のバレエ用の「PAUL McCARTNEY'S OCEAN'S KINGDOM」と云い、本編である公演の模様ではなく音楽だけがリリースされているのは、些か困ったちゃんなのです。ヒア・ミュージック/コンコードとしても、2007年リリースのアルバム「MEMORY ALMOST FULL」以来4年ぶりのスタジオ・アルバムがクラシック作品では、困惑したんじゃないでしょうか。
(小島イコ)