ビートルズの音源が2009年9月9日にリマスターされて大好評となったのを待っていたのか、ポール・マッカートニーは2010年11月2日にリリースの「BAND ON THE RUN」から「アーカイヴ・コレクション」を始めたのですが、ソレが2024年の現在でも完結していなくて、挙句の果てに先日(2024年2月2日)には「BAND ON THE RUN」の50周年記念盤がリリースされてしまいました。何だかんだ云っても、ポールは現役バリバリなので、旧作のリマスターばかりやっているわけにはいかないのでしょう。ジョージ・ハリスンは2009年6月16日にベスト盤「LET IT ROLL SONGS BY GEORGE HARRISON」をリリースしていますが、ダーク・ホース時代のアルバムは2004年に、アップル時代のアルバムは2014年に、それぞれリマスターしていて、2005年には「THE COCERT FOR BANGLADESH」がリマスターされていて、それらに遺作のアルバム「BRAINWASHED」を合わせると全集となります。リンゴ・スターは2007年8月27日にベスト盤「PHOTOGRAPH THE VERY BEST OF RINGO」をリリースしていますが、リマスターして全集を出す動きはありません。
そして、ジョン・レノンです。ジョンは、生前にジョン自身が編集した1975年リリースの「SHAVED FISH」全11曲入りと、死後の1982年リリース(CD化は1989年)の「THE JOHN LENNON COLLECTION」全19曲入りと、サントラ盤でビートルズも含めた準ベスト盤と云える1988年リリースの「IMAGINE」全21曲入りと、1990年リリースのCD4枚組の箱「LENNON」全73曲入りと、1997年リリースの「LENNON LEGEND」全20曲入りと、2005年リリースの2枚組「WORKING CLASS HERO - THE DEFINITIVE LENNON(決定盤ジョン・レノン 〜ワーキング・クラス・ヒーロー)」全38曲入りと、何度もベスト盤が出ておりました。2000年代になってからジョンのアルバムはリミックスされていて、何れもファンからは不評で、リミックス音源での「決定盤ジョン・レノン」も決定盤にはなれなかったのです。ソレにしたって「決定盤ジョン・レノン」ってパチモンみたいな邦題は、何とかならなかったのでしょうか。こうして僅か5年後にベスト盤が何種類も出されて、恥ずかしくてなかった事にしたくもなるのに「決定盤」なんですよ。
そんな流れで、2010年10月5日に、ジョンのオリジナル・アルバムの箱とバラ売りとベスト盤2種が一挙にアップルとキャピトルからリリースされました。此の一連の「ジョン生誕70周年記念盤」は、どれもが「ジョンのミックスに戻す」と云う「そんなの当たり前じゃん」なリマスターなのですが、そんな普通の事が行われるのには長い道のりがあったのです。「JOHN LENNON SIGNATURE BOX(ジョン・レノンBOX)」には、アップル・レーベルで、1970年のアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」、1971年のアルバム「IMAGINE」、1972年の2枚組アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」、1973年のアルバム「MIND GAMES」、1974年のアルバム「WALLS AND BRIDGES」、1975年のアルバム「ROCK'N'ROLL」、1980年のアルバム「DOUBLE FANTASY」(コレのみキャピトルから)、1984年のアルバム「MILK AND HONEY」の8作9枚に、「SINGLES」と「HOME TAPES」の2枚を加えた11枚組で、美しい白地の箱に収められています。
ライヴ盤が入っていないし、遺稿集でデモやリハーサル音源でしかない「MILK AND HONEY」も入っているのは欠点ですが、それぞれのアルバムはバラ売りもされていて、アルバム「DOUBLE FANTASY」に関しては、バラ売りはキャピトル盤で2枚組の「DOUBLE FANTASY : STRIPPED DOWN」となっていて、単品では箱にしか入っていません。「DOUBLE FANTASY : STRIPPED DOWN」は、オリジナルと、ヨーコさんとジャック・ダグラスによって新たにリミックスされた装飾を取り払った音源が収録されているのですけれど、こう云う事を勝手にやってしまって宜しいのでしょうか。何だか、大瀧師匠が亡くなってから勝手にリミックスしている最近のナイアガラ音源を聴かされているみたいで、個人的には好きではありません。「ジョンのオリジナル・ミックスに戻す」なんて云いながら、結局はこんなもんも混ぜてしまうのは困ったちゃんなのです。
さて、生前のスタジオ・アルバムは此の箱にリマスター音源で全て収録されていて、それぞれはオリジナル通りでボーナス・トラックは入っていません。ソレに関しては、これまた「そんなの当たり前じゃん」なのに、コレまでは「リミックスしてボーナス・トラックを入れるのが良い」と勘違いしていたのです。シングルのみだった曲は「SINGLES」に、1「POWER TO THE PEOPLE」、2「HAPPY XMAS(WAR IS OVER)」、3「INSTANT KARMA!(WE ALL SHINE ON)」、4「COLD TURKEY」、5「MOVE OVER MS. L」、6「GIVE PEACE A CHANCE」、と6曲が収録されているのですが、CD1枚にたったの6曲って云うのも何だかなあ、ですし、エラスティック・オズ・バンドの「DO THE OZ」とか、ライヴ音源を入れても良かった気もします。が、しかし、もう1枚の「HOME TAPES」は、なかなかスゴイ事になっています。既発曲のアウトテイクやデモ音源なのですが、公式盤では全てが初出音源です。
内容は、1「MOTHER」、2「LOVE」、3「GOD」、4「I FOUND OUT」、5「NOBODY TOLD ME」、6「HONEY DON'T」、7「OUT OF THE BOYS」、8「INDIA, INDIA」、9「SERVE YOURSELF」、10「ISOLATION」、11「REMEMBER」、12「BEAUTIFUL BOY(DARLING BOY)」、13「I DON'T WANNA BE A SOLDIER MAMA I DON'T WANNA DIE」の、全13曲入りです。1970年のアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」のアウトテイクが圧倒的に多くて、「MOTHER」はギター入りのラフミックス、「LOVE」はピアノ抜きのアウトテイク、「GOD」はギター入りのアウトテイク、「I FOUND OUT」はコーラス入りのアウトテイク、「HONEY DON'T」はウォーミングアップ、「ISOLATION」と「REMEMBER」はジョンがひとりで演奏したアウトテイクです。
他の「NOBODY TOLD ME」と「BEAUTIFUL BOY(DARLING BOY)」は1980年の「バミューダ・デモ」音源で、1977年の「OUT OF THE BOYS」と、1979年もしくは1980年の「INDIA, INDIA」と、1980年の「SERVE YOURSELF」はホーム・デモで、「I DON'T WANNA BE A SOLDIER MAMA I DON'T WANNA DIE」は、1971年のアルバム「IMAGINE」のアウトテイクです。まだまだ、未発表音源は山ほどある、と思わされる音源集となっていますので、「DOUBLE FANTASY : STRIPPED DOWN」なんて作るよりも、もっと未発表音源を公式盤でリリースして頂きたいものですなあ。此の箱でハブにされたのは「ジョン&ヨーコさんの前衛3部作」や「LIVE PEACE IN TORONTO 1969」や「LIVE IN NEW YORK CITY」や「エルトン・ジョンとのライヴ音源」や「MENLOVE AVE.」などのアウトテイク集で、前衛3部作は場違いでしょうけれど、やはりライヴ音源は入れても良かったと思います。そうした「欠け」があるので「全集」ではなく「ベスト盤」なのです。
(小島イコ)