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2024年02月04日

「ポールの道」#273「BAND ON THE RUN」50th Anniversary Edition



今年(2024年)2月2日に、ポール・マッカートニー&ウイングスのアルバム「BAND ON THE RUN」50周年記念盤がMPL/キャピトルからリリースされました。実は、コレを書いているのは2月2日で、発売日に買って早々聴いております。アルバム「BAND ON THE RUN」は、個人的にはポールのアルバムで初めて買ったアルバムで、ソレは米国キャピトル盤だったので「HELEN WHEELS(愛しのヘレン)」がB面の途中にぶち込まれている全10曲入りでした。英国盤や日本盤は全9曲入りで、A面が、1「BAND ON THE RUN」、2「JET」、3「BLUEBIRD」、4「MRS. VANDEBILT」、5「LET ME ROLL IT」で、B面が、1「MAMUNIA」、2「NO WORDS」、3「PICASSO'S LAST WORDS(DRINK TO ME)」、4「NINETEEN HUNDRED AND EIGHTY FIVE」で、米国盤は「NO WORDS」と「PICASSO'S LAST WORDS」の間に「HELEN WHEELS」が入っているわけで、結構トータル・アルバムらしさをぶち壊しているんですよ。

ところが、今回の「50周年記念盤」では、キャピトル主導なのか本編が米国盤仕様の全10曲入りとなっております。クレジットを見ると、此の本編は2010年制作となっていて、つまりは「アーカイヴ・コレクション」の最初に出た音源をそのまんま流用しているのかもしれません。2010年にアルバム「BAND ON THE RUN」で始まった「アーカイヴ・コレクション」は未だ完結しておらず、今回の「BAND ON THE RUN」は「アーカイヴのアーカイヴ」みたいな事になってしまいました。しかも「HELEN WHEELS」が本編に入っただけでリマスターは2010年盤とどこが違うのか、1回聴いただけでは分かりません。しかしながら、今回のリイシュー盤の目玉は2枚目の「UNDERDUBBED」なのです。こちらは1973年にジェフ・エメリックがAIRスタジオのピーター・スウェッテナムと共に行ったラフミックスがそのまんま収録されています。

全9曲は、1「BAND ON THE RUN」、2「MAMUNIA」、3「NO WORDS」、4「JET」、5「BLUEBIRD」、6「MRS. VANDEBILT」、7「NINETEEN HUNDRED AND EIGHTY FIVE」、8「PICASSO'S LAST WORDS(DRINK TO ME)」、9「LET ME ROLL IT」と並べ替えられていますが、此の曲順はラフミックス・テープの曲順通りになっているそうです。コレは何なのかと申しますとですね、ポール様曰く「これは、いままで誰も聴いたことがないような『バンド・オン・ザ・ラン』だ。曲を作って、追加のギターなどのパートを足すことを”オーヴァーダブ”と言う。このヴァージョンは”アンダーダブド”、つまりその逆の状態のものなんだよ」なわけで、ストリングスは勿論、シンセサイザーやホーンなども追加でオーバーダビングされていません。

それではコレはウイングスが一発録音したのかと云うと、ソレは違っていて、何せ此の時のウイングスはラゴスでレコーディングするのを嫌がったリード・ギタリストのヘンリー・マカロックとドラマーのデニー・シーウェルが脱退してしまい、ポールとリンダとデニー・レインの3人だけになっちゃったのにレコーディングを敢行していて、リンダは素人同然で楽器なんか弾けないから、実質的にはポールとデニー・レインの二人だけでベーシック・トラックを、おそらく最初は、ポールがドラムを叩いて、デニー・レインがギターを弾いて、ソノ上に二人でオーバーダビングしていったはずなのです。故に、今回の「UNDERDUBBED」は、ある程度オーバーダビングした制作途中の音源だと思われます。ちゃんとドラムとベースとギターとヴォーカルとコーラスが入っているので、ポールが分身の術でも使わない限りは、此の状態の音にはならないからです。

そもそもレコード会社に「ウイングスなんて誰も知らないから、ポール・マッカートニー&ウイングスに改名しろ」と云われたウイングスですけれど、ポールの他がリンダとデニー・レインの二人だけで、楽器が弾けるのはポールとデニー・レインの二人だけと云う事は、ウイングスはデニー・レインだけとなります。ソレが此のラフミックスを聴くとですね、ノーオーバーダビング風のバンド・サウンドになっているわけで、事実上はポールのソロ・アルバムに限りなく近いのに、ポールは「デニー・レインの便利屋ぶり」と「リンダの献身的な愛情」を受けてバンドに拘ったわけです。故に、ポールとしては此の状態が「ノーオーバーダビング」なのでしょう。此の時のウイングスは、1969年にジョン・レノンとポール・マッカートニーの二人だけで「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」をレコーディングして、ビートルズ名義で発表した時の方法論と同じなわけで、違うのは相方がジョンではなくデニー・レインだっただけなのです。いや、そりゃあ、エグイ違いですけれど。

店頭で購入しようと行ったら、ジャケットが白地にポールとリンダとデニー・レインの本来は裏ジャケに使われたパスポート風な写真で驚きました。まあ、間違って旧盤を買わない様にポールが気を遣ってくれたのかもしれませんが、ロック史上に遺る名ジャケットでもあるわけで、些か寂しい気持ちで開封したら、オリジナルのジャケットは中に紙ジャケでちゃんと付いていました。ポールはこう云う事を、よくやります。リンダによるポラロイドのポスターもミニ・サイズで付いていましたし、サービス満点です。でも、オリジナルのアルバム「BAND ON THE RUN」は1973年12月にリリースされたので、50周年なら昨年(2023年)12月なんですよ。クレジットには2023年と書いてあるので、昨年に出せたのに2か月延ばしたのでしょう。何故かと云えば、昨年の11月にはビートルズ最後の新曲「NOW AND THEN」と、「赤盤」と「青盤」の新装盤を出したからでしょう。レコード会社から「ビートルズで盛り上がっている時に、ウイングスなんていらないんだよ」と云われない様に、ポールは気を遣っているわけですよ。実際に、昔に云われていますからね。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする