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2023年11月09日

「ポールの道」#187「GONE TROPPO」

ゴーン・トロッポ


1982年10月27日に、ジョージ・ハリスンは、ビートルズ解散後8作目となるスタジオ・ソロ・アルバム「GONE TROPPO」をダーク・ホース/ワーナーからリリースしました。タイトルは「GONE A BIT LOONEY」を略したもので、「ちょっとキレている」と云う意味です。此のアルバムをリリースした当時のジョージは映画制作に没頭していて、音楽は趣味みたいなもんで、アルバムのプロモーション活動も全く行っていなくて、全米108位で全英ではチャートインすらしていません。評論家も挙って酷評していて、それどころかビートルズやジョージのファンを自認する方々からも滅茶苦茶叩かれました。松村雄策さんの様な「ビートルズ命」の方からまで「今のジョージがやっている事は、ビートルズ・ファンに対する裏切り行為だ」とまで書かれていました。内容は、A面が、1「WAKE UP MY LOVE(愛に気づいて)」、2「THAT'S THE WAY IT GOSE」、3「I REALLY LOVE YOU」、4「GREECE」、5「GONE TROPPO」で、B面が、1「MYSTICAL ONE」、2「UNKNOWN DELIGHT」、3「BABY DON'T RUN AWAY」、4「DREAM AWAY」、5「CIRCLES」の、全10曲入りです。ジャケットは元・ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンドの“レッグス”ラリー・スミスが手掛けていて、楽曲は「I REALLY LOVE YOU」が1961年のステレオズによるドゥーワップ・ナンバーのカヴァーで、他はジョージの自作です。プロデュースはジョージに前作でも組んだレイ・クーパーと、ビートルズ時代からの盟友・フィル・マクドナルドの3人です。1曲目の「WAKE UP MY LOVE」はシングル・カットされて、全米53位まで上がっていますが、かつては全米首位に輝いていたジョージにとっては物足りない成績でした。そんな事情もあってか、ジョージの次作アルバムは5年後となってしまいました。

リリース当時に酷評され大失敗作とされたアルバム「GONE TROPPO」ですが、後に「なかなか良いんじゃないの」と評価される事となります。「WAKE UP MY LOVE」のシンセサイザー・ポップや、ジョージらしい「THAT'S THE WAY IT GOSE」や、真面目にドゥーワップをカヴァーしている点ではタツローにも通じる「I REALLY LOVE YOU」もあり、前奏が長過ぎてインストゥルメンタルかと思わせてヴォーカルが入る「GREECE」、無国籍音楽っぽい「GONE TROPPO」、美しい「MYSTICAL ONE」や、ジョージならではのコード進行が冴える「UNKNOWN DELIGHT」、コーラスが面白い「BABY DON'T RUN AWAY」、映画「バンデットQ」の主題歌だったので「オ・ラ・イ・ナ・エ」として日本ではシングル・カットされたポップな「DREAM AWAY」、そしてアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」の頃に書いて現在では「イーシャー・デモ」の音源も聴ける「CIRCLES」と、楽曲としては捨て曲なしの粒揃いなんですけれどね。此のアルバムには、ヘンリー・スピネッティ(ドラムス)、ハービー・フラワーズ(ベース)、レイ・クーパー(パーカッション)、デイヴ・マタックス(ドラムス)、ビリー・プレストン(キーボード)などの他に、ディープ・パープルのジョン・ロードや、おそらくビリー・プレストン繋がりで、シリータも参加しています。シリータはスティーヴィー・ワンダーの最初の奥さんで、スティーヴィーと数多くの楽曲を共作していて、スティーヴィーのプロデュースで、1972年のアルバム「SYREETA」と、1974年のアルバム「STEVIE WONDER PRESENTS SYREETA」と云った名作を残していて、1979年から1981年頃にはビリー・プレストンとデュエットした楽曲やアルバムをリリースしています。「DREAM AWAY」でジョージとほとんどデュエット状態で聴ける声は、シリータによるものです。現在のCDでは「MYSTICAL ONE」のデモ音源が、ボーナス・トラックとして収録されています。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする