1970年代後半に「暗黒時代」に突入したリンゴ・スターは、1977年のアルバム「RINGO THE 4TH(ウイングス〜リンゴW)」で米国のアトランティックとの契約を切られて、1978年のアルバム「BAD BOY」で英国などのポリドールとの契約も切られてしまいました。ソレで、後がなくなったリンゴは、かつての大ヒット作である1973年のアルバム「RINGO」の夢よもう一度とばかりに、三度「WITH A LITTLE HELP FROM MY FRIENDS」形式でのアルバムを画策しました。でもですね、夢よもう一度は1976年のアルバム「RINGO’S ROTOGRAVURE」で失敗しちゃっていたわけで、まあ、ソレがリンゴの限界でもあるわけですよ。そもそもビートルズ時代にはアルバムで1曲しか歌っていないリンゴが、ソロ歌手として大ブレイクした1970年代前半が「狂った世界」だったので、ソノ後に「世界は正常に戻った」だけだったのです。しかし、リンゴにもプライドがあります。なんてったって「元・ビートルズ」なんですから、落ちぶれた侭ではいられないのです。ソレで、1980年7月に、まずはポール・マッカートニーに楽曲提供と演奏とプロデュースを依頼して、「ATTENTION」と「PRIVATE PROPERTY」を提供してもらい、ビートルズ時代にポールが歌っていたカール・パーキンスの「SURE TO FALL」のカヴァーと、リンゴ作で当初はアルバムのタイトル曲だった「YOU CAN'T FIGHT LIGHTNING」をレコーディングしました。
ソノ後は、スティーヴン・スティルスが提供してプロデュースした「YOU'VE GOT A NICE AWAY」を、9月にはロン・ウッドが共作してプロデュースした「DEAD GIVEAWAY」と、オージェイズのカヴァー「BRANDY」もレコーディングして、11月にはハリー・ニルソンが提供した「DRUMMING IS MY MADNESS(ドラムは恋人)」と共作した「STOP AND TAKE THE TIME TO SMELL THE ROSES(バラの香りを)」をレコーディングしました。更にニルソンは、リンゴのセルフ・リメイク「BACK OFF BOOGALOO」もプロデュースしています。11月後半にはジョージ・ハリスンにも参加を要請して、ジョージの提供曲「WRACK MY BRAIN」と、スー・トンプソンのカヴァー「YOU BELONG TO ME」をジョージがプロデュースしています。そして、リンゴは当然ながら当時再スタートを切ったジョン・レノンにも協力を求めて、ジョンはリンゴの為に「NOBODY TOLD ME」と「LIFE BEGINS AT 40」などを書いて、翌1981年1月にレコーディングする予定になっていました。ジョンの死によってレコーディングは不可能となり、リンゴは敢えてジョンの曲は歌わない事で追悼したのでした。2曲共に、後にジョンによるデモ音源やリハーサル音源がリリースされています。そんな行程で完成した元々のアルバム「YOU CAN'T FIGHT LIGHTNING」の内容は、A面が、1「ATTENTION」、2「PRIVATE PROPERTY」、3「YOU'VE GOT A NICE AWAY」、4「WAKE UP」、5「YOU CAN'T FIGHT LIGHTNING」で、B面が、1「WRACK MY BRAIN」、2「DEAD GIVEAWAY」、3「BRANDY」、4「YOU BELONG TO ME」、5「STOP AND TAKE THE TIME TO SMELL THE ROSES」の、全10曲の予定でした。
しかし、レコード会社が決まらず、結局は米国ではボードウォーク・レコードから1981年10月27日に、英国ではRCAから同年11月23日にリリースされたのがアルバム「STOP AND SMELL THE ROSES」で、内容は変更されて、A面が、1「PRIVATE PROPERTY」、2「WRACK MY BRAIN」、3「DRUMMING IS MY MADNESS」、4「ATTENTION」、5「STOP AND TAKE THE TIME TO SMELL THE ROSES」で、B面が、1「DEAD GIVEAWAY」、2「YOU BELONG TO ME」、3「SURE TO FALL」、4「YOU'VE GOT A NICE AWAY」、5「BACK OFF BOOGALOO」の、全10曲入りです。ジョージ作のシングル「WRACK MY BRAIN」が全米38位で久しぶりのヒット曲となり、アルバムは全米98位で、英国ではチャートインしていません。ジョージの曲はヒットしたし良作だし、ポールの2曲はそのまんまアルバム「TUG OF WAR」に入っていても違和感がない佳曲ですし、それぞれの曲は粒揃いで決して悪くはないものの、リンゴが作者に丸投げしてプロデューサーが分散されてしまい、アルバムとしての流れがないのが難点でしょうか。「BACK OFF BOOGALOO」のリメイクも楽しい仕上がりなんですけれどね。CD化で「WAKE UP」、「RED AND BLACK BLUES」、「BRANDY」、「STOP AND TAKE THE TIME TO SMELL THE ROSES(Original Vocal Version)」、「YOU CAN'T FIGHT LIGHTNING」、「HAND GUN PROMOS」の6曲がボーナス・トラックとして収録されました。
(小島イコ)
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