エリック・スチュワートとグレアム・グールドマンの「10cc」が、失速ぎみになっていた1981年10月に、元・同僚だったゴドレイ&クレームは4作目のアルバム「ISMISM」をポリドールからリリースしました。内容は、A面が、1「SNACK ATTACK」、2「UNDER YOUR THUMB」、3「JOEY'S CAMEL」、4「THE PROBLEM」、5「READY FOR RALPH」で、B面が、1「WEDDING BELLS」、2「LONNIE」、3「SALE OF THE CENTURY」、4「THE PARTY」の、全9曲入りです。レコーディング・メンバーは、ビンボ・アコックがサックスで参加している以外は全てケヴィン・ゴドレイとロル・クレームの二人だけで行っていて、ケヴィンが、ヴォーカル、ドラムス、パーカッション、ドラム・マシーンで、ロルが、ヴォーカル、ベース、ギター、キーボード、シンセサイザーです。楽曲は全てゴドレイ&クレーム作で、プロデュースもゴドレイ&クレームで、ロルはエンジニアも担当しています。と、ここまではこれまでのアルバムと同じですが、代名詞だったギズモがクレジットされていません。ジャケットも実にシンプルと云うか、アルバム「L」もシンプルでしたけれど、何とも云えない味があります。当時、ケヴィンはヘルニアで食事もとれない状態になっていて、ソノ経験が「SNACK ATTACK」のアイデアに繋がっています。第3弾シングルになった7分を超える「SNACK ATTACK」と最後の8分にも及ぶ「THE PARTY」は、早過ぎる「ラップ」を取り入れていて、ケヴィンによるラップが炸裂するクセになる楽曲です。「JOEY'S CAMEL」は「SNACK ATTACK」を遅くしたオケを使っていて、他にも「THE PROBLEM」や「READY FOR RALPH」や「LONNIE」は、ラップ以前のポエトリーリーディングの様にケヴィンが歌詞をただ読み上げているだけと云う新たな技を繰り出しています。特に「SNACK ATTACK」の荒ぶるサックスに乗せたラップは「何事か」と思える程にカッコイイのです。
そして、第1弾シングルとなった「UNDER YOUR THUMB」は全英3位となり、第2弾シングルの「WEDDING BELLS」も全英7位まで上がると云う、ゴドレイ&クレームとしては初めての大ヒット曲が2曲も生まれる事ともなりました。エリック&グレアムの「10cc」が低迷してゆく時期に、ソレに代わる様に「ゴドレイ&クレーム」が売れてしまうと云う歴史的な転換期を迎えたわけです。アルバムも全英29位まで上がるヒット作となり、完全に「10cc」とは立場が逆転してしまいました。ヒット曲となった「UNDER YOUR THUMB」はシンセ・ポップ路線で、ロル・クレームによるファルセットでのコーラスもイイ感じなドゥーアップ調の「WEDDING BELLS」も名曲です。云わばオリジナル10cc時代の様な楽曲で、同じ路線の「SALE OF THE CENTURY」も良いです。コノ時期のゴドレイ&クレームは、ミュージック・ヴィデオの監督としても頭角を現してきたのですが、本業であるミュージシャンとしても大衆に受け入れられたので、ノリに乗っていた時期でした。シングル「SNACK ATTACK」の米国盤は怪獣映画のポスターみたいなデザインで、アルバム「ISMISM」も真っ白ではなく真っ黒なデザインのジャケットもありました。2000年代になってからのCDには、「UNDER YOUR THUMB」のB面だった「POWER BEHIND THE THRONE」と、「WEDDING BELLS」のB面だった「BABIES」と、「AN ENGLISH MAN IN NEW YORK」のシングル・エディットである「STRANGE APPARATUS」もしくは「SNACK ATTACK(Extended Version)」の3曲がボーナス・トラックとして収録されています。「POWER BEHIND THE THRONE」と「BABIES」は、箱「BODY OF WORK 1978-1988」に他のアルバム未収録曲と共に収録されているので、これから集めようとするならば、「CONSEQUENCES」と「BODY OF WORK 1978-1988」の2箱で手っ取り早く揃えちゃう事をオススメします。
(小島イコ)