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2023年10月31日

「ポールの道」#178「SOMEWHERE IN ENGLAND」

想いは果てなく~母なるイングランド


1980年12月8日にジョン・レノンが射殺されてしまったので、其れ以後にリリースされた作品は全て1980年までの音源となりました。そこで、これまでの様にリリース順ではなくレコーディング順で此の連載を続けてゆくと、ここからは暫くの間はずっとジョンのベスト盤について書いてゆく事になってしまいます。ソレはソレで正しい記録ではあるのですが、未だにジョンの死を受け止められない気持ちも強いので、まあ、もうすぐジョンがヴォーカルの新曲「NOW AND THEN」もリリースされますので、発売順で折に触れてジョンも登場するカタチにします。それにしても、新装盤の「赤盤」と「青盤」へ加えられる21曲は、誰が選んだのかは分かりませんが、結構、攻めています。ジョージが書いた「IF I NEEDED SOMEONE(恋をするなら)」や「TAXMAN」は順当ですけれど、「WITHIN YOU WITHOUT YOU」や「I ME MINE」なども選ばれているし、ジョンの曲では「TOMORROW NEVER KNOWS」だけではなく「I WANT YOU(SHE'S SO HEAVY)」と云った「尖がった曲」も収録されるので、従来の「赤盤」と「青盤」や「1」とは違ったベスト盤となるでしょう。さて、1980年11月2日に、ジョージ・ハリスンはビートルズ解散後では7作目のソロ・アルバム「SOMEWHERE IN ENGLAND(想いは果てなく〜母なるイングランド)」をダーク・ホース/ワーナーからリリースする予定でした。ジョン・レノンとヨーコ・オノのアルバム「DOUBLE FANTASY」の日本盤の帯に告知が掲載されているので、実際にリリース直前まで行っていたと分かります。しかし、前作「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」の売り上げに不満だったワーナー側は、内容の再検討を求めて、ジョージと協議した結果、4曲を差し替えてジャケットも変更して発売する事になったのでした。

差し替え前に予定していた内容は、A面が、1「HONG KONG BLUES」、2「WRITING'S ON THE WALL(神のらくがき)」、3「FLYING HOUR」、4「LAY HIS HEAD」、5「UNCONSCIOUSNESS RULES(空白地帯)」で、B面が、1「SAD SINGING」、2「LIFE IT SELF」、3「TEARS OF THE WORLD」、4「BALTIMORE ORIOLE」、5「SAVE THE WORLD(世界を救え)」の、全10曲入りでした。コノ内、「FLYING HOUR」と「LAY HIS HEAD」と「SAD SINGING」と「TEARS OF THE WORLD」の4曲を差し替えて、「UNCONSCIOUSNESS RULES」を30秒短縮する事になって、再レコーディングしていた時にジョンの訃報があり、大いにショックを受けたジョージはリンゴ・スターに提供する予定だった曲の歌詞をジョンへの追悼に変えて、リンゴとポール&リンダ・マッカートニーも参加した「ALL THOSE YEARS AGO(過ぎ去りし日々)」として急遽レコーディングして、先行シングルとして1981年5月にリリースして、全米2位・全英13位の大ヒット曲となりました。リンゴ用のオケを流用していて、リンゴのドラムスと、ポール&リンダのコーラスは別にレコーディングしているので、実際にジョージも含めた3人が揃って演奏しているわけではありません。それにしても、ジョージは過去にも「SOMETHING」や「MY SWEET LORD」や「YOU」などを提供曲として書いていて、コノ時にもリンゴ用に書いていたわけで、名曲を他人に書くクセがあり、困ったもんです。ソノ大ヒット曲も加えた1981年6月1日リリースの改訂盤の内容は、A面が、1「BLOOD FROM A CLONE」、2「UNCONSCIOUSNESS RULES(空白地帯)」、3「LIFE IT SELF」、4「ALL THOSE YEARS AGO(過ぎ去りし日々)」、5「BALTIMORE ORIOLE」で、B面が、1「TEARDROPS」、2「THAT WHICH I HAVE LOST」、3「WRITING'S ON THE WALL(神のらくがき)」、4「HONG KONG BLUES」、5「SAVE THE WORLD(世界を救え)」の、全10曲入りです。

ジャケットも、モノクロの凝った画像から、カラーの工芸品を背景にした写真に変更されてしまい、「BLOOD FROM A CLONE」と「ALL THOSE YEARS AGO」と「TEARDROPS」と「THAT WHICH I HAVE LOST」を差し替えただけではなく、曲順まで大きく変更されています。楽曲は差し替え以前の4曲も加えた全14曲中、「HONG KONG BLUES」と「BALTIMORE ORIOLE」の2曲はホーギー・カーマイケル作のカヴァーで、他の12曲はジョージのオリジナルです。プロデュースはジョージとレイ・クーパーの共同で、演奏は、ジョージ・ハリスン(リード&バッキング・ヴォーカル、ギター、シンセサイザー、キーボード)、リンゴ・スター(ドラムス)、レイ・クーパー(ドラムス、キーボード、シンセサイザー、パーカッション)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、デイヴ・マタックス(ドラムス)、ウィリー・ウィークス(ベース)、ハービー・フラワーズ(ベース、チューバ)、ゲイリー・ブルッカー(キーボード、シンセサイザー)、アル・クーパー(キーボード、シンセサイザー)、マイク・モラン(キーボード、シンセサイザー)、ニール・ラーセン(キーボード、シンセサイザー)、トム・スコット(ホーン)、アラ・ラクハ(タブラ)、そして「ALL THOSE YEARS AGO」にポール&リンダ・マッカートニー、デニー・レイン(バッキング・ヴォーカル)です。アルバムは「ALL THOSE YEARS AGO」効果もあり、全米11位・全英13位とソコソコのヒットとはなりましたが、ジョージの本意ではない内容だったし、歌詞の内容でも当時のミュージック・シーンへの批判がもろに出ています。現在のCDではジャケットだけ差し替え前に戻されて「SAVE THE WORLD」のデモ音源が加えられていて、差し替え前の4曲の内「TEARS OF THE WORLD」は何故かアルバム「THIRTY THREE & 1/3(33 1/3)」のボーナス・トラックになっています。「FLYING HOUR」と「LAY HIS HEAD」と「SAD SINGING」も、全て蔵出しされていて、「ALL THOSE YEARS AGO」は名曲で軽快な曲調が逆に泣かせますが、まあ、内容もジャケットも改訂前の方が良いです。

(小島イコ)

想いは果てなく~母なるイングランド(紙ジャケット仕様)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする