まずは最初に、今年(2023年)11月2日に、ビートルズの新曲「NOW AND THEN」が、全世界同時発売される事が公表されました。コノ楽曲は、1970年代後半にジョン・レノンが録音していたデモ音源に、ポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンとリンゴ・スターが音を重ねた楽曲で、1995年の「FREE AS A BIRD」(アルバム「ANTHOLOGY 1」収録)や1996年の「REAL LOVE」(アルバム「ANTHOLOGY 2」収録)と同じ手法で、もともとは1996年のアルバム「ANTHOLOGY 3」へ収録を予定してポールとジョージとリンゴが音を重ねたものの、元のテープのノイズを取り切れずに収録を断念した曲です。今回は、2021年公開のドキュメンタリー作品「GET BACK」で用いた「デミックス」によってテープのノイズを除去して、ジョージによる演奏も残して、新たにポールとリンゴが新録した部分もあると云う、45年越しの新曲として発表されるそうです。そして、11月10日には、ソノ「NOW AND THEN」も加えた「赤盤」と「青盤」のリニューアル盤も全世界同時発売されるそうです。2017年の「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」から始まったリミックス盤シリーズは、今年(2023年)は「赤盤」と「青盤」の50周年盤であり、「赤盤」には12曲、「青盤」には9曲が追加されて、既にリミックスされているアルバム「REVOLVER」よりも前の楽曲に関しては「2023年ミックス」での収録となるそうです。ビートルズの箱物の2023年盤はコレだったわけですが、6月位にポールが「NOW AND THEN」をリリースするとお漏らししちゃったので、驚きは少なくて済みました。でも「赤盤」と「青盤」の新装盤に関しては予想していなかったし、長年親しまれているベスト盤なので新たに加えられた曲に関しては、色々と云われそうです。何せ、新装盤の「赤盤」には、アノ「TOMORROW NEVER KNOWS」も収録されているんですよ。
さて、1976年にEMI / キャピトルとの契約が切れた時に、ポール・マッカートニーは延長して、ジョージ・ハリスンとリンゴ・スターは他社へ移籍して、ジョン・レノンはどことも契約せず、一旦は音楽業界から足を洗い、ズバリ云って「引退して、主夫になった」とか云って、遊んで暮らしておりました。そんなジョンが、元・相方のポールの曲「COMING UP」に触発されたり、友達の家でアニメ映画「YELLOW SUBMARINE」を観た息子のショーンに「パパはビートルズだったの?」と云われたりして、遂に重い腰を上げて、ゲフィン・レコードと契約して、1980年10月23日(米国)、同年10月24日(英国)、同年11月10日(日本)にシングル「(JUST LIKE)STARTING OVER」をリリースしました。初めてFMで聴いた時には涙目になったし、エアチェックした音源(プロモ盤音源だったのでエンディングが長い)を繰り返し聴きました。そして、1980年11月17日に、復帰アルバムである「DOUBLE FANTASY」がリリースされたのです。が、しかし、内容は、A面が、1「(JUST LIKE)STARTING OVER」、2「KISS KISS KISS」、3「CLEANUP TIME」、4「GIVE ME SOMETHING」、5「I'M LOSING YOU」、6「I'M MOVING ON」、7「BEAUTIFUL BOY(DARLING BOY)」で、B面が、1「WATCHING THE WHEELS」、2「YES I'M YOUR ANGEL」、3「WOMAN」、4「BEAUTIFUL BOYS」、5「DEAR YOKO」、6「EVERY MAN HAS A WOMAN WHO LOVES HIM」、7「HARD TIMES ARE OVER」の、全14曲入りで、ジョンの曲とヨーコさんの曲が交互に会話形式で進む、本当の合作で、ジョンは「片面ずつに分けると、ヨーコの曲を聴いてもらえないから交互に入れた」と確信犯だった事を語っていました。確かに名義はジョンとヨーコさんだし、篠山紀信さんが撮ったジャケットでも二人がキスしています。
つまり、ジョンが書いて歌っているのは「(JUST LIKE)STARTING OVER」と「CLEANUP TIME」と「I'M LOSING YOU」と「BEAUTIFUL BOY(DARLING BOY)」と「WATCHING THE WHEELS」と「WOMAN」と「DEAR YOKO」の7曲で、他の7曲はヨーコさんが書いて歌っているわけですわなあ。よく評論家の方々は「ジョンの曲だけを聴いたのでは、コノ作品の本質に触れた事にはならない!」などと、如何にも「俺は分かっているぜ!」的な事を書いているのですけれど、他人がどう聴こうが余計なお世話だし、ジョン自身だって「ヨーコの曲は飛ばされる」と自覚していたわけですよ。個人的には、通して聴くよりも、ジョンの曲だけ聴く方が心地良いですし、だったら、ジョンの死後に何度もリリースされ捲っているベスト盤には、何故ジョンの曲しか収録されていないのでしょうか。特に、死後に最初に出た「THE JOHN LENNON COLLECTION」には、此のアルバム「DOUBLE FANTASY」でのジョンの7曲中6曲も収録されているんですよ。何にしろ、コレは名盤には違いないし、夫であり父である等身大の40歳のジョン・レノンと云う人間が、ソレをそのまんま音楽に昇華している姿は、ビートルズ解散直後の1970年のアルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」と同等か、もしかしたら、ソレ以上の輝きを放っているし、「(JUST LIKE)STARTING OVER」や「WOMAN」などは、発表した瞬間からエヴァーグリーンなスタンダード曲となったと思います。だからこそ、1980年12月8日の悲劇は、何十年経っても忘れられないし、ジョン自身も「何で?」としか云えないでしょう。だって、数時間前にダコタ・ハウスの前で待っていてサインをしてあげた自分のファンだと思っていた男が、仕事から帰って来たらまだいて、そいつが自分を銃で撃って殺されちゃったんですよ。ジョンの死後にアルバムは全米・全英・日本を含む世界各国で首位となり、グラミー賞も獲得し、シングル「(JUST LIKE)STARTING OVER」も全米・全英首位、「WOMAN」も全米2位・全英首位、「WATCHING THE WHEELS」も全米10位・全英30位、とビッグ・ヒット作となりました。でも、ソレをジョンは永遠に知らないのです。
(小島イコ)
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