1979年2月14日に、ジョージ・ハリスンはビートルズ解散後では6作目となるスタジオ・アルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」を、ダーク・ホース/ワーナーからリリースしました。前作アルバム「THIRTY THREE & 1/3(33 1/3)」から2年半のインターバルを置いての作品で、ソノ間にジョージは趣味だったカーレース観戦や、映画制作などに没頭して、音楽活動をセミリタイアしていました。しかし、カーレーサーのニキ・ラウダの音楽活動再開の要請もあって、プライベートでもオリヴィアさんと再婚して、息子のダーニも誕生して、再起したのでした。内容は、A面が、1「LOVE COMES TO EVERYONE(愛はすべての人に)」、2「NOT GUILTY」、3「HERE COMES THE MOON」、4「SOFT-HEARTED HANA」、5「BLOW AWAY」で、B面が、1「FASTER」、2「DARK SWEET LADY」、3「YOUR LOVE IS FOREVER(永遠の愛)」、4「SOFT TOUCH」、5「IF YOU BELIEVE」の、全10曲入りです。全曲がジョージによるオリジナルですが、「IF YOU BELIEVE」のみジョージとゲイリー・ライトの共作です。プロデュースはジョージとラス・タイトルマンで、タイルトマンは後にスティーヴ・ウィンウッドやエリック・クラプトンのアルバムをプロデュースして大成功するので、ジョージは先見の明があります。参加ミュージシャンはジョージ・ハリスン(ギター、リード&バッキング・ヴォーカル、ベース)の他には、アンディ・ニューマーク(ドラムス)、ウィリー・ウィークス(ベース)、ニール・ラーセン(キーボード、ミニ・モーグ)、レイ・クーパー(パーカッション)、スティーヴ・ウィンウッド(ポリモーグ、ハーモニウム、ミニ・モーグ、バッキング・ヴォーカル)、エミリー・リチャード(マリンバ)、ゲイル・レヴァント(ハープ)、エリック・クラプトン(ギター「LOVE COMES TO EVERYONE」)、ゲイリー・ライト(オーバーハイム「IF YOU BELIEVE」)、デル・ニューマン(ストリング&ホーン・アレンジ)と、豪華です。
邦題の「慈愛の輝き」は、日本ではアルバム「ALL THINGS MUST PASS」に「ジョージ・ハリスン」と付けられていたので、「YOUR LOVE IS FOREVER」の歌詞から取ったタイトルになっています。アルバムのタイトルが「GEORGE HARRISON」と云う事は、ジョージ自身もかなり自信作だったのでしょう。しかし、全米14位、全英39位、と余りヒットしていません。リリース当時は「パンク」や「ニュー・ウェイブ」の時代でしたが、ジョージは「パンクはクズだ」と云う程に「我が道をゆく」人なので、時代に迎合する事はなく、自分の信じた音楽を制作する人でした。ゆえに此のアルバムは「時代と寝ていない」からこそ名盤と云われ続けているし、個人的にもアルバム「ALL THINGS MUST PASS」と同等の素晴らしいアルバムだと思います。最初の「LOVE COMES TO EVERYONE」は、第2弾のシングル・カットもされて、ギターで参加しているエリック・クラプトンが、ジョージの死後にオリジナルに忠実にカヴァー(両方にスティーヴ・ウィンウッドが参加)した名曲です。「NOT GUILTY」は、ビートルズ時代のアルバム「THE BEATLES(ホワイト・アルバム)」の時に、100テイク以上もレコーディングしてボツになった曲で、ビートルズでのヘヴィーなヴァージョン(アルバム「ANTHOLOGY 3」収録)とは違ったアコースティックなアレンジに変わっています。「HERE COMES THE MOON」は、ビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」収録の名曲「HERE COMES THE SUN」のセルフ・パロディで、詞も曲調もアレンジまで自分でマネしています。ジョージは「ラトルズ」にも出演していたので、だったら自分でやってみようとなったのでしょう。後には「WHEN WE WAS FAB」も発表しているので、ビートルズを最も客観的に見れるのはジョージだったのでしょう。「HERE COMES THE MOON」と「SOFT-HEARTED HANA」は、ハワイでマジック・マッシュルームでトリップして書いたらしいのですが、他の楽曲にもトロピカル風味が多いのは、ハワイでの休暇が影響していると思えます。
A面最後の「BLOW AWAY」は第1弾シングル・カットされていて、米国では16位まで上がるスマッシュ・ヒットとなっています。当時は引退状態だったジョン・レノンが、コレを茶化した曲を弾き語りしたデモ音源もあります。B面最初のカーレースのSEから始まる「FASTER」は、F1レーサーたちの写真(A面)とレーシングカー(B面)を使ったピクチャー・レコードとして第3弾シングルになっています。「DARK SWEET LADY」と「YOUR LOVE IS FOREVER」は、どちらも妻となったオリヴィアさんを歌ったラヴ・ソングで、ジョージは「YOUR LOVE IS FOREVER」はビートルズ時代の「SOMETHING」と同等の出来栄えだと自画自賛していた名曲です。「DARK SWEET LADY」と「SOFT TOUCH」には、スティーヴ・ウィンウッドが歌と演奏で参加しています。最後の「IF YOU BELIEVE」は前述の通りゲイリー・ライトとの共作で、爽やかにアルバムを締めています。全10曲全てがシングル・カット出来そうな、実際にシングル盤両面で7曲がカットされている名曲ばかりで、捨て曲は無しの名盤ですので、ビートルズしか聴いていない方やジョージはベスト盤しか持っていない方には、1970年のアルバム「ALL THINGS MUST PASS」と1987年のアルバム「CLOUD NINE」と共に「ハズレなし」と堂々と自信を持ってオススメ出来る傑作です。これらの3作に共通しているのは「貯めがある」事でして、アルバム「ALL THINGS MUST PASS」はビートルズ時代の、アルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」にも2年半のインターバルが、アルバム「CLOUD NINE」にも5年ものインターバルがあったわけで、ジョージは「貯め」さえあれば名盤が作れるのですよ。現在のCDでは「HERE COMES THE MOON」のデモ音源が、ボーナス・トラックとして収録されています。
(小島イコ)