ジョージ・ハリスンは、1974年にA&M傘下で自身のレーベル「DARK HORSE」を立ち上げました。ところが、ジョージ本人はEMI / アップルとの契約が1976年1月まで残っていて、A&Mが望んでいたジョージのソロ・アルバムは出せない状態でした。ソレでスプリンターやラヴィ・シャンカールなどのアルバムばかりリリースされたA&Mは大いに不信感を募らせて、ようやくジョージの契約が切れてソロ・アルバム「THIRTY THREE & 1/3(33 1/3)」を制作し始めたものの、レコーディングが契約の締め切りに間に合わずリリースが延期となった事で、A&Mはジョージを訴えそうになりました。そこで、ワーナーが間に入って、A&Mへの違約金を肩代わりするカタチで、ジョージはレーベルごとワーナー傘下へと移籍して、1976年11月8日にリリースしたのが移籍後初でソロとしては5作目のスタジオ・アルバム「THIRTY THREE & 1/3」です。前回に取り上げたEMIが勝手にリリースしたベスト盤「THE BEST OF GEORGE HARRISON」と同日となりますが、書物によってリリース日は違っていて、1976年11月19日(英国)、同年11月24日(米国)とも云われてはいます。どっちにしろ、EMIでのベスト盤とワーナーでの新作が僅か10日余りの期間でリリースされたのは事実です。スットコドッコイなベスト盤は、ソレでも全米31位とそこそこ売れたわけで、新作は全米11位だったので、邪魔されなければトップ10入りしていたでしょう。コノ鬼畜が如き所業は、1966年5月16日にビーチ・ボーイズが「PET SOUNDS」をリリースしたのに、内容を理解出来ずに売り上げに不満だったキャピトルが、僅か2か月も経たない同年7月11日にベスト盤をリリースしてしまった歴史的な愚挙よりも酷いです。
さて、そんな不幸なアルバム「THIRTY THREE & 1/3」ですが、タイトルはレコードの回転数と、制作中のジョージの年齢に掛けています。実際には、本当に「33 1/3」歳になった時にリリースを予定していて、ソレが延期されて「A&M」から「ワーナー」へと移籍となってからのリリースとなってしまったので「33 2/3」位になっていたんですけれどね。内容は、A面が、1「WOMAN DON'T YOU CRY FOR ME(僕のために泣かないで)」、2「DEAR ONE」、3「BEAUTIFUL GIRL」、4「THIS SONG」、5「SEE YOURSELF」で、B面が、1「IT'S WHAT YOU VALUE」、2「TRUE LOVE」、3「PURE SMOKEY」、4「CRACKERBOX PALANCE(人生の夜明け)」、5「LEARNING HOW TO LOVE YOU(愛のてだて)」の、全10曲入りです。1956年のコール・ポーター作でオリジナルはビング・クロスビーとグレース・ケリーのデュエットだった「TRUE LOVE」がカヴァーで、他の9曲はジョージのオリジナル曲で、プロデュースもジョージです。レコーディングのメンバーは、ジョージ・ハリスン(リード・ヴォーカル、ギター、シンセサイザー、パーカッション)の他には、ウィリー・ウィークス(ベース)、アルヴィン・テイラー(ドラムス)、ゲイリー・ライト(キーボード)、リチャード・ティー(ピアノ、オルガン、フェンダー・ローズ)、ビリー・プレストン(ピアノ、オルガン、シンセサイザー)、デイヴィッド・フォスター(フェンダー・ローズ、クラヴィネット)、トム・スコット(サクソフォン、フルート、リリコン)、エミル・リチャーズ(マリンバ)、と云った面々です。前作である「EXTRA TEXTURE」に続いての起用となったデイヴィッド・フォスターの色も強く出ていて、所謂ひとつのAOR路線がもう一歩進んだ印象です。更に、トム・スコットのサックスやリリコンなども目立っております。
1曲目の「WOMAN DON'T YOU CRY FOR ME」は、ウィークスのベースが凄いのですが、2021年にリリースされたアルバム「ALL THINGS MUST PASS」の50周年記念盤の箱にアウトテイクが収録されているので、蔵出しだったのでしょう。前作アルバム「EXTRA TEXTURE」の1曲目も1971年の「YOU」を蔵出ししていて、次作のアルバム「GEORGE HARRISON(慈愛の輝き)」にもビートルズ時代に書いた「NOT GUILTY」が蔵出しされているので、1970年代後半のジョージには貯めがなかったのでしょう。其の辺が、湯水の様に曲が出来て貯めがあり捲りのポール・マッカートニーとは違うところではありますが、ジョージも貯めさえあれば名盤が出来る事は後の歴史が証明しています。「DEAR ONE」はアコースティックな曲にシンセ・ベースを加えた革新的なアレンジで、1977年のビーチ・ボーイズの「LOVE YOU」みたいです。「BEAUTIFUL GIRL」や「SEE YOURSELF」や「IT'S WHAT YOU VALUE」はジョージ節全開だし、シングル・カットして全米25位の「THIS SONG」は「MY SWEET LORD」の盗作問題から出来た曲で、モンティ・パイソンが協力したMVも爆笑モノです。「CRACKERBOX PALANCE」もシングル・カットされて全米19位のヒット曲で、こちらでもモンティ・パイソンの面々が出ていて楽しい曲です。ジョージはラトルズの映像版にも出演しているし、ソノ勢いで「HERE COMES THE MOON」を書いちゃうし、映画プロデューサー時代にはモンティ・パイソンの映画を制作しています。「TRUE LOVE」は意外なカヴァーで、「PURE SMOKEY」はまたしてもスモーキー・ロビンソンに捧げた曲です。そして最後の「LEARNING HOW TO LOVE YOU」は、A&Mのハーブ・アルパートへ捧げられていて、何で自分を訴えようとした相手にこんな美しい曲を書いて捧げるのかが、一般人には理解不能です。現行のCDには、1981年のアルバム「SOMEWHERE IN ENGLAND」から外された4曲の内の1曲「TEARS OF THE WORLD」が、ボーナス・トラックとして収録されています。
(小島イコ)
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