元ビートルズの4人は、解散状態になってからもアップルからそれぞれ年に1作は新作を発表していましたが、どうやらそう云う契約になっていた様です。そんな中でポール・マッカートニーは、1975年のウイングス名義のアルバム「VENUS AND MARS」からは、泥船アップルからではなく、EMIもしくはキャピトル傘下で自分のレーベルである「MPL」から作品をリリースしています。4人はビートルズ時代の1967年に交わした9年間の契約が1976年2月に切れるので、それぞれがまとめに入っております。ジョージ・ハリスンは、1975年9月22日(米国)、同年10月3日(英国)、同年10月20日(日本)に、アルバム「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)」をアップルからリリースしました。現在では世界同時発売とか、日本先行発売日本盤のみボーナス・トラック入りとかになっていますが、当時は日本盤がリリースされるのは遅れるのが当たり前でした。さて、其のビートルズ解散後のジョージのスタジオ・アルバムとしては4作目となるアルバム「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)」ですが、邦題の「ジョージ・ハリスン帝国」と云うのは、一体何処から持って来たのかが理解不能です。実際の意味は、新聞の号外を配る時の掛け声「EXTRA!EXTRA!READ ALL ABOUT IT」から取った洒落です。オレンジ色のジャケットは、アナログ盤ではタイトル部分がくり抜かれていて、下のジョージのポートレートが覗いている変型ジャケットでした。レコード時代にはこうした変型ジャケットでの遊びもあって、ジョン・レノンのアルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」もそうでした。更に、ジョージはアップルの林檎のマークを食べて芯のみが残ったイラストに変えていて、実際に元ビートルズのメンバーによるオリジナル・アルバムはコレが最後となりました。
アルバム「EXTRA TEXTURE(READ ALL ABOUT IT)」の内容は、A面が、1「YOU(二人はアイ・ラヴ・ユー)」、2「THE ANSWER'S AT THE END(答は最後に)」、3「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)(ギターは泣いている)」、4「OOH BABY(YOU KNOW THAT I LOVE YOU)(ウー・ベイビー、わかるかい)」、5「WORLD OF STONE(悲しみの世界)」で、B面が、1「A BIT MORE OF YOU(君を抱きしめて)」、2「CAN'T STOP THINKING ABOUT YOU(つのる想い)」、3「TIRED OF MIDNIGHT BLUE(哀しみのミッドナイト・ブルー)」、4「GREY CLOUDY LIES(暗い偽り)」、5「HIS NAME IS “LEGS”(LADIES & GENTLEMAN)(主人公レッグス)」の、全10曲です。全曲が、ジョージによるオリジナル曲で、プロデュースもジョージですが、全曲に何だかよく分からない邦題が付けられていて、混乱するので原題で進めます。レコーディング・メンバーは、ジョージ・ハリスン(ヴォーカル、ギター)の他には、ジム・ケルトナー(ドラムス)、ジム・ゴードン(ドラムス)、アンディ・ニューマーク(ドラムス)、カール・レイドル(ベース)、ポール・ストールワース(ベース)、ウィリー・ウィークス(ベース)、クラウス・フォアマン(ベース)、ニッキー・ホプキンス(キーボード)、ビリー・プレストン(キーボード)、デイヴィッド・フォスター(キーボード)、ゲイリー・ライト(キーボード)、レオン・ラッセル(キーボード)、ジェシ・エド・デイヴィス(ギター)、ジム・ホーン(サックス)、トム・スコット(ホーン)と豪華メンバーが揃っております。お馴染みのメンバーに加えてデイヴィッド・フォスターの名前がありますが、コレは後に大プロデューサーとなるデイヴィッド・フォスターと同一人物で、ジョージが才能を高く買って、ストリングス・アレンジも任せているのです。
最初の「YOU」の邦題である「二人はアイ・ラヴ・ユー」は、もう人称が無茶苦茶で、同じ曲の繰り返しである「A BIT MORE OF YOU」の邦題が「君を抱きしめて」って、邦題を見ただけでは、もはや違う曲としか思えないですよ。「YOU」は、1971年にロニー・スペクターの為に書かれた曲で、ソノ時にロニー用にレコーディングしたバッキング・トラックを流用して、キーが違うのでテープのスピードを落としてジョージのヴォーカルと、デイヴィッド・フォスターによるシンセサイザーなどをダビングして、テープのスピードを戻したので、ジョージの声が甲高くなっています。シングル・カットされて、米国で20位、英国で38位と、そこそこヒットしましたが、名曲だと思います。「THE ANSWER'S AT THE END」はジョージの泣き節で、「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)」は、ビートルズ時代の「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」の二番煎じで、シングル・カットされましたが、ヒットしていません。セルフ・パロディでも、後の「HERE COMES THE MOON」位に突き抜けてはいません。「OOH BABY(YOU KNOW THAT I LOVE YOU)」はスモーキー・ロビンソンに捧げた曲で、「WORLD OF STONE」はシングル「YOU」のB面にもなりました。「A BIT MORE OF YOU」は前述の通り「YOU」のサワリで、「CAN'T STOP THINKING ABOUT YOU」はゴスペル調で、「TIRED OF MIDNIGHT BLUE」は捻って、「GREY CLOUDY LIES」もゴスペル調で、全体的に甘いものの、後のAORに繋がる印象です。最後の「HIS NAME IS “LEGS”(LADIES & GENTLEMAN)」は、元ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンドのドラマーでジョージの親友であるレッグス・ラリー・スミスを歌った曲で、レッグス本人も参加してお祭り騒ぎになって、それまでの鬱憤を晴らしてくれます。アルバムは全米8位は良いとして、全英22位は低過ぎました。現在のCDではボーナス・トラックとして、「THIS GUITAR(CAN'T KEEP FROM CRYING)」のリメイク版が収録されています。
(小島イコ)
【関連する記事】