1974年12月20日に、ジョージ・ハリスンはビートルズ解散後では3作目となるアルバム「DARK HORSE」を、アップルからリリースしました。当時のジョージはA&M傘下に自身のレーベル「DARK HORSE」を設立して多くのミュージシャンを抱えアルバムをリリースしたものの、肝心なジョージ自身のアルバムは契約が残っていたのでアップルからリリースしていました。更に、ビートルズ解散後のメンバーでは初めてとなる北米ツアーを敢行したのですが、シタールの師であるラヴィ・シャンカールのパートも加えた(ジョージ自身はシャンカールと自分のジョイント・コンサートの心算だった)構成や、ビートルズの「IN MY LIFE」を歌詞を改変(「IN MY LIFE I LOVE YOU MORE」の「YOU」を「GOD」にした)にビートルズが大好きな米国人に大ブーイングを浴びました。そして、私生活でも妻のパティが親友のエリック・クラプトンと不倫して別居し、ジョージ自身は後に再婚するオリヴィアと出逢ったりと色々とあり、ソノ上「MY SWEET LORD」の盗作問題も重なり、遂には声を潰してしまいます。北米ツアーの煽りでリリースする予定だったアルバム「DARK HORSE」もレコーディングが遅れてしまい、リリースした時にはもうツアーは終盤でした。でもですね、アルバム「DARK HORSE」の頃の写真を観ると、ジョージは何かを覚悟している凛々しい表情で、ズバリ云ってとってもカッコイイのです。北米ツアーには旧知のビリー・プレストンも参加していて、ビリーが3曲も自分の曲(「WILL IT GO ROUND IN CIRCLES」と「NOTHING FROM NOTHING」と「OUTA-SPACE」)を演奏しています。まあ、そちらは大ヒット曲ばかりなので好評でしたが、シャンカールにしろビリーにしろ、ジョージは他人を立てる良い人なんですよ。まあ、立て過ぎるんですけれどね。
アルバム「DARK HORSE」の内容は、A面が、1「HARI'S ON TOUR(EXPRESS)」、2「SIMPLY SHADY」、3「SO SAD」、4「BYE BYE LOVE」、5「MAYA LOVE」で、B面が、1「DING DONG, DING DONG」、2「DARK HORSE」、3「FAR EAST MAN」、4「IT IS HE(JAI SRI KRISHNA)」の、全9曲入りです。コノ内「BYE BYE LOVE」はエヴァリー・ブラザーズのカヴァーで、名曲「FAR EAST MAN」がジョージとロン・ウッドの共作で、他は全てジョージのオリジナルです。最初の「HARI'S ON TOUR(EXPRESS)」は、ツアーの最初に演奏するテーマ曲と云えるインストゥルメンタルで、トム・スコット(サックス)がブイブイ云わせているカッコイイ曲です。お得意のジョージによる泣き節の「SIMPLY SHADY」も、同じメンバーでの演奏です。コレマタ泣き節の「SO SAD」は、リンゴ・スターとジム・ケルトナーがツイン・ドラムで、ピアノがニッキー・ホプキンスで、ベースがウィリー・ウィークスによる編成です。「BYE BYE LOVE」は原曲とは大きく違うマイナー調にアレンジされていて、別居したパティと間男のクラプトンを揶揄したと取れる内容ですが、ジョージは後にパティと離婚して、パティとクラプトンが再婚する時に式に出て、ポールとリンゴと一緒にビートルズの曲を演奏までしたと云うのですから、クラプトンとは、一体どう云う関係性なのか一般人には理解不能です。まあ、レコードのレーベルを見れば分かる通りに、ジョージもコノ頃には既にオリヴィアとできちゃっていたわけですけれどね。「MAYA LOVE」は、ジョージ(ギター、ヴォーカル)、ビリー・プレストン(エレクトリック・ピアノ)、ウィリー・ウィークス(ベース)、アンディ・ニューマーク(ドラムス)、トム・スコット(サックス)と云う布陣で、後にシングルのB面になります。
シングル・カットされた「DING DONG, DING DONG」は、「ウェストミンスターの鐘」をイントロとサビにした、一聴すると子どもでも書ける様な単純な曲ですが、全米36位、全英38位とスマッシュ・ヒットしていて、ゲーリー・ライト(ピアノ)、クラウス・フォアマン(ベース)、リンゴ・スター&ジム・ケルトナー(ドラムス)、ミック・ジョーンズ、アルヴィン・リー、ロン・ウッド(ギター)、トム・スコット(サックス)などが参加しています。「DARK HORSE」はジョージ自身を「ビートルズの穴馬」に例えた曲で、「MAYA LOVE」と同じメンバーで、シングル・カットされて全米15位とヒットしました。そして、此のアルバムで最も素晴らしいのがロン・ウッドと共作した「FAR EAST MAN」です。此の曲もジョージ(ギター、ヴォーカル)、ビリー・プレストン(エレクトリック・ピアノ)、ウィリー・ウィークス(ベース)、アンディ・ニューマーク(ドラムス)、トム・スコット(サックス)による演奏で、兎に角「MAYA LOVE」と「DARK HORSE」と「FAR EAST MAN」と最後の「IT IS HE」でのコノ布陣による演奏は素晴らしいです。特に「FAR EAST MAN」は、ジョージにしか書けない美しい曲で、ジョージが大好きな鈴木茂さんは明らかに影響を受けています。コノ曲は共作したロン・ウッドもアルバム「俺と仲間(I've Got My Own Album to Do)」で取り上げていて、あたくしはソレ1曲の為にロン・ウッドのアルバムも買いました。最後の「IT IS HE(JAI SRI KRISHNA)」は、ジョージの必殺技である「神様賛歌」です。幾つかの曲でジョージの声が別人の様にしゃがれていますが、ジョージ本人は「サッチモみたいでいいだろ」と云っています。アルバムは全米4位とヒットしましたが、全英ではチャートインしていません。現在のCDでは、シングルB面だった「I DON'T CARE ANYMORE」と「DARK HORSE」のデモ音源の2曲が加わっています。オリヴィアさんは「ジュールズ俱楽部」に出た時に、一番好きなアルバムは二人が出逢った「DARK HORSE」と云っていたのに、ベスト盤に「FAR EAST MAN」を選曲しないって、そりゃないでしょ。
(小島イコ)
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