1974年に「THE LOST WEEKEND(失われた週末)」時代で呑んだくれていたジョン・レノンですが、呑み仲間であったハリー・ニルソンが酒で喉を潰してしまい、アノ美声を失ってしまった事で、ニルソンを更生させようとアルバム「PUSSY CATS」をプロデュースしました。ソノ流れで自身もアルバムを作る気になり、ニューヨークへ戻り断酒して、1974年5月には曲作りから始めて、同年7月にリハーサルを開始して、同年8月にかけてレコーディングしました。そして、一説には本番はたったの4日間で完成させたとも云われるアルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」を、1974年9月26日(米国)、同年10月4日(英国、日本)にアップルからリリースしたのです。レコーディング・メンバーは、リハーサルから参加している、ジム・ケルトナー(ドラムス)、クラウス・フォアマン(ベース)、ジェシ・エド・デイヴィス(ギター)に加えて、ニッキー・ホプキンス(ピアノ)、ケン・アッシャー(ピアノ、クラビネット、ストリングス・アレンジ)、ボビー・キーズ(サックス)、スティーブ・マダイオ(トランペット)、ハワード・ジョンソン(サックス)、エディ・モットー(アコースティック・ギター)、アーサー・ジェンキンス(パーカッション)、エルトン・ジョン(ハーモニー、キーボード)、ハリー・ニルソン(ハーモニー)と云った面々で、ソレにジョン自身は10人格で曲によって変名を使っています。まず、ジャケットが只事ではありません。ロイ・コハラによるジャケットは、2枚のフラップ仕様になっていて、表にはジョンが11歳だった頃に描いた絵が3枚、裏には1974年当時のボブ・グルーエンによるジョンのポートレートが、フラップをめくると何面相も出来る様になっています。
内容は、A面が、1「GOING DOWN ON LOVE(愛を生きぬこう)」、2「WHATEVER GETS YOU THRU THE NIGHT(真夜中を突っ走れ)」、3「OLD DIRT ROAD(枯れた道)」、4「WHAT YOU GOT」、5「BLESS YOU(果てしなき愛)」、6「SCARED(心のしとねは何処)」で、B面が、1「#9 DREAM(夢の夢)」、2「SURPRISE, SURPRISE(SWEET BIRD OF PARADOX)(予期せぬ驚き)」、3「STEEL AND GLASS(鋼のように、ガラスの如く)」、4「BEEF JERKY」、5「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU'RE DOWN AND OUT)(愛の不毛)」、6「YA YA」の、全12曲入りです。コノ内「OLD DIRT ROAD」はニルソンとの共作で、「YA YA」は1961年のリー・ドーシーのカヴァーで、他の10曲はジョンのオリジナルです。邦題は首を傾げたくなるものも多いので原題で書きますが、まずは最初の「GOING DOWN ON LOVE」からして、ビートルズ時代の「HELP !」を彷彿させる様な直接的な救いを求める曲です。次の「WHATEVER GETS YOU THRU THE NIGHT」は、エルトン・ジョンが客演していて、エルトンは「コレが全米首位になったら、コンサートで共演して欲しい」と云って、ジョンは出来の悪い曲だからそんな事にはならないだろうと承諾したら、本当に全米首位になってしまった曲で、ジョンがソロになって初めての全米首位曲で、ジョージやポールやリンゴにすら負けていたのです。ちなみに全英では36位とヒットしていません。「OLD DIRT ROAD」は共作したニルソンが参加していて、ローリング・ストーンズの1976年の「FOOL TO CRY(愚か者の涙)」は、コノ曲に似ていると思います。「WHAT YOU GOT」は、ディスコ調ですが、メッセージ性は強い曲です。「BLESS YOU」はヨーコさんに捧げた美しい曲で、遠吠えから始まる「SCARED」は、ジョン自身がローリング・ストーンズの1978年のヒット曲「MISS YOU」はコノ曲のテンポを速くしただけだと云っています。
「#9 DREAM」は、ジョンがプロデュースした1974年のニルソンのアルバム「PUSSY CATS」に収録されたジミー・クリフのカヴァー「MANY RIVERS TO CROSS」のオーケストラ・アレンジにヒントを得て書いた曲で、シングル・カットしてジョンのラッキー・ナンバーである全米9位まで上がった名曲です。途中で「ジョン」と囁いているのは、ヨーコさん公認の愛人だったメイ・パンです。「SURPRISE, SURPRISE(SWEET BIRD OF PARADOX)」は、其のメイ・パンに捧げた曲で、エルトン・ジョンが参加していて、エンディングでビートルズの「DRIVE MY CAR」風のコーラスが聴けます。「STEEL AND GLASS」は、ジョンが「HOW DO YOU SLEEP ?」の息子と云った辛辣な曲で、今度の批判対象はマネジャーだったアラン・クレインです。ポールの時と同様に、信頼していたからこそ裏切られた時のジョンの反撃は凄まじいのです。「BEEF JERKY」はジョンには珍しいインストで、UFOの擬音入りです。そして、実質的には最後の「NOBODY LOVES YOU(WHEN YOU'RE DOWN AND OUT)」は、ジョンが「失われた週末」時代を総括した曲で、ドラマティックな展開でヘビーな内容を歌った此のアルバムで最も重要な曲です。其の後の「YA YA」は、当時11歳だった息子のジュリアンがドラムを叩いて、ジョンがピアノを弾いて歌っている微笑ましいカヴァーです。最後の最後にこう云う遊びを入れるのは、ビートルズらしいです。アルバムは、ジョン自身がコマーシャルにアレンジした事もあって、全米首位、全英6位と大ヒットしました。2005年にボーナス・トラック入りのリミックス盤が出ましたが、2010年10月5日にジョンのオリジナルへ戻されています。
(小島イコ)
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