1972年6月に米国で、同年9月に英国でリリースしたアルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」や、同年8月に行われた「ワン・トゥ・ワン・コンサート」で不調ぶりを見せてしまったジョン・レノンですが、1973年10月30日に米国で、同年11月16日に英国で、ジョン・レノンのソロ名義では1971年の「IMAGINE」以来となるアルバム「MIND GAMES」をアップルからリリースしました。レコーディングのメンバーは「The Plastic U.F.Ono Band」とされていますが、ジョンの他には、デヴィッド・スピノザ(ギター)、ゴードン・エドワーズ(ベース)、ケン・アッシャー(キーボード)、ジム・ケルトナー(ドラムス)、アーサー・ジェンキンス(パーカッション)、マイケル・ブレッカー(サックス)、スニーキー・ピート・クレイナウ(ペダル・スティール)、サムシング・ディファレンス(コーラス)と云った凄腕のスタジオ・ミュージシャンを起用しています。デヴィッド・スピノザは、ポール&リンダ・マッカートニーのアルバム「RAM」にも参加していて、ソノ時にはリンダとそりが合わずに途中でセッションから離脱してしまったのですが、コノ時にはヨーコさんとのただならぬ関係が取りだたされていて、事実として此のアルバムのレコーディングを開始した頃にジョンとヨーコさんは別居して、ジョンは所謂ひとつの「失われた週末」時代へと突入しました。前作まで組んでいたフィル・スペクターとも一旦は離れて、ジョンのセルフ・プロデュース作となっています。デヴィッド・スピノザは腕は良いけれど、どうも奥さんとどうにかなってしまう人だし、フィル・スペクターに関しては、ジョージ・ハリスンも前回に紹介したアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」でも共同プロデュースする心算だったのにスタジオで酒を呑んでいたりするので外したらしく、ジョンも再び「ROCK'N'ROLL」で組んでみたらスタジオで拳銃をぶっ放したりして、奇才と云うだけでは済まされない人でした。
さて、アルバム「MIND GAMES」の内容は、A面が、1「MIND GAMES」、2「TIGHT A$」、3「AISUMASEN(I’m Sorry)」、4「ONE DAY(At A Time)」、5「BRING ON THE LUCIE(Freda People)」、6「NUTOPIAN INTERNATIONAL ANTHEM」で、B面が、1「INTUITION」、2「OUT THE BLUE」、3「ONLY PEOPLE」、4「I KNOW(I Know)」、5「YOU ARE HERE」、6「MEAT CITY」の、全12曲入りです。が、「NUTOPIAN INTERNATIONAL ANTHEM」は架空の国「ヌートピア」の国歌で無音ですので、実質的には11曲です。シングル・カットは「MIND GAMES / MEAT CITY」で、米国で18位、英国で26位と厳しい成績でしたが、あたくしも含めて日本人は「MIND GAMES」と云う曲が好きです。アルバムの方は、米国で9位、英国で13位、とこれまた微妙な成績ですが、日本では6位まで上がっています。複数のギターを重ねたイントロから、いきなりサビに入る構成が良いんですよね。ZARDに同名のシングル曲がありますが、坂井泉水さんは「ジョン・レノンが好き」と云っていたので、頂いたんでしょうね。日本で売れた要因として、此のアルバムはバラードが多くて聴き易いからでしょう。たどたどしい日本語で「あいすみません、ヨーコさん」と歌う「AISUMASEN(I’m Sorry)」とか、珍しくファルセットで歌い女性コーラスが入る「ONE DAY(At A Time)」とか、イントロがビートルズの「I'VE GOT A FEELING」と同じ「I KNOW(I Know)」とか、ヨーコさんとの出逢いを歌う「YOU ARE HERE」とか、ジョンにしては甘口な楽曲が多くて、其の辺が元々のジョン・レノン支持者からは「物足りない」とされるところでしょう。ゆるい感じの「INTUITION」と「ONLY PEOPLE」や、政治色が残る「BRING ON THE LUCIE(Freda People)」や、ロックンロールの「TIGHT A$」と「MEAT CITY」とバラエティーに富んではいます。しかしながら、そんな中でも、ビートルズと云うかポール・マッカートニー作の「BLACKBIRD」のコード進行から頂いた「OUT THE BLUE」は名曲です。
前作アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」と此のアルバム「MIND GAMES」は、どうもジョンのアルバムの中でも評価が低い様で、1990年にリリースされたCD4枚組で73曲入りの箱「LENNON」への収録曲の少なさがソレを物語っています。アルバム「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」からは全11曲中全曲、アルバム「IMAGINE」からは全10曲中9曲、アルバム「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」からは全12曲中9曲、アルバム「DOUBLE FANTASY」とアルバム「MILK AND HONEY」からはジョンのヴォーカル曲全13曲中全曲、ライヴ盤の「LIVE PEACE IN TORONT 1969」からでもジョンのヴォーカル曲は全6曲中4曲、カヴァー集のアルバム「ROCK'N'ROLL」からでさえも全13曲中6曲が選ばれているのに、アルバム「SOMETIME IN NEW YORK CITY」からは3曲で、ソレはジョン&ヨーコの合作だったのでジョンがソロで歌っているのはソノ3曲のみなので仕方ないとして、アルバム「MIND GAMES」からは全12曲(実質11曲)中たったの5曲(「MIND GAMES」、「AISUMASEN(I’m Sorry)」、「ONE DAY(At A Time)」、「INTUITION」、「OUT THE BLUE」)しか選曲されていません。此のアルバムのCD化は、1988年3月22日にオリジナル通りでリリースされて、2002年10月7日に例のピーター・コビンによるリミックス盤が出て、ソノ時にはボーナス・トラックで「AISUMASEN(I’m Sorry)」と「BRING ON THE LUCIE(Freda People)」と「MEAT CITY」の3曲のホーム・デモが追加されています。此のリミックス盤は「ジョンの魂」や「IMAGINE」程の違和感はありませんが、やはり元に戻す事になって、2010年10月4日にオリジナル通りのリマスター盤がリリースされています。ジョンのベスト盤は何度も出ていて、後に詳しく取り上げますが、前述の「LENNON」は良い企画だったので、アルバム「MIND GAMES」はハブにはされているものの、アレをリマスターして再発して欲しいものです。
(小島イコ)