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2023年09月09日

「ポールの道」#126「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」

リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド


1970年の3枚組アルバム「ALL THINGS MUST PASS」と、1971年の3枚組ライヴ・アルバム「THE CONCERT FOR BANGLA DESH」でイケイケドンドン状態だったジョージ・ハリスンは、英国では1973年5月7日に、米国では同年5月25日に、シングル「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH) / MISS O’DELL」をリリースして、「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」は、英国で8位、米国では首位を獲得しています。ちなみに、ソノ前の首位はポール・マッカートニー&ウイングスの「MY LOVE」でした。そして、1973年6月22日にビートルズ解散後では2作目となるアルバム「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」をアップルからリリースしますが、ジョージは1971年8月1日に行われた「バングラデシュ難民救済コンサート」のレコード化や映画化、そして、何よりも収益をバングラデシュへ送る為に多忙で、スタジオ・アルバムとしては前作である「ALL THINGS MUST PASS」から2年近く経ってのリリースとなっております。レコーディングのメンバーは、ジョージ・ハリスン(リード・ヴォーカル、バッキング・ヴォーカル、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、ドブロ・ギター、シタール)、ニッキー・ホプキンス(ピアノ、エレクトリック・ピアノ)、ゲイリー・ライト(オルガン、ハーモニウム、エレクトリック・ピアノ、ハープシコード)、クラウス・フォアマン(ベース、ダブルベース、テナー・サックス)、ジム・ケルトナー(ドラムス、パーカッション)、リンゴ・スター(ドラムス、パーカッション)、ジム・ホーン(サクソフォン、フルート、ホーン・アレンジメント)、ザキール・フセイン(タブラ)、ジョン・バーハム(オーケストラル・アレンジメント、コーラス・アレンジメント)、レオン・ラッセル(ピアノ)、ジム・ゴードン(ドラムス、タンバリン)、バッドフィンガーのピート・ハム(アコースティック・ギター)と、いつも通りに錚々たるメンバーが揃っています。

前作からインターバルがあるのは、同じアップルから1973年4月19日にビートルズの「赤盤」と「青盤」が、同年4月30日(米国)5月4日(英国)にはポール・マッカートニー&ウイングスのアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」と立て込んでいて、発売が延期されていた為です。内容は、A面が、1「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」、2「SUE ME, SUE YOU BLUES」、3「THE LIGHT THAT HAS LIGHTED THE WORLD」、4「DON'T LET ME WAIT TO LONG」、5「WHO CAN SEE IT」、6「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」で、B面が、1「THE LORD LOVES THE ONE(THAT LOVES THE LORD)」、2「BE HERE NOW」、3「TRY SOME BUY SOME」、4「THE DAY THE WORLD GETS ’ROUND」、5「THAT IS ALL」の、全11曲入りで全曲ジョージ作です。ソノ内「TRY SOME BUY SOME」はロニー・スペクターに書いて彼女がアップルから1971年4月にリリースした曲のセルフカヴァーで同じバッキング・トラックですので、コレだけジョージとフィル・スペクターの共同プロデュースになっていて、他はジョージが一人でプロデュースしています。「TRY SOME BUY SOME」をロニー・スペクターに書いた頃に、ジョージは「YOU(二人はアイ・ラヴ・ユー)」も書いて、ロニー・スペクター用にバッキング・トラックまでレコーディングしたのにボツになってしまい、後に発表した時にはロニー・スペクター用のカラオケを流用して回転数を落として歌入れして元の早さに戻したので、ジョージの声が甲高くなっています。先行シングル「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」は全米首位の名曲で、前述の通りソノ前の首位はポール・マッカートニー&ウイングスの「MY LOVE」でしたが、「GIVE ME LOVE(GIVE ME PEACE ON EARTH)」の次はビリー・プレストンの「WILL IT GO ROUND IN CIRCLES」が首位になっていて、ビートルズ絡みで3曲連続首位になっています。1973年には半年後には、他にもリンゴ・スターの「PHOTOGRAPH(想い出のフォトグラフ)」も全米首位になっています。

「SUE ME, SUE YOU BLUES」は、明らかにビートルズの解散に絡んだ裁判の顛末を歌った曲で、ジェシ・エド・デイヴィスへの提供曲のセルフカヴァーです。タイトル曲の「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」にも、ジョンとポールが歌詞に登場するので、ビートルズが解散して一番得した男の面目躍如です。「THE LIGHT THAT HAS LIGHTED THE WORLD」や「WHO CAN SEE IT」も美しいし、ポップな「DON'T LET ME WAIT TO LONG」も良いので、A面は文句なしですが、ブラスも入ってビートルズ時代の「SAVOY TRUFFLE」風の「THE LORD LOVES THE ONE(THAT LOVES THE LORD)」や前述の「TRY SOME BUY SOME」は良いとして、「BE HERE NOW」と「THE DAY THE WORLD GETS ’ROUND」と「THAT IS ALL」辺りはクドイかな、と思います。ビートルズ時代の貯めを吐き出した前作「ALL THINGS MUST PASS」と違って、此のアルバムの曲は解散後に書かれた曲が多いので、やはりジョージは貯めがないとヤバイんですよ。此のアルバムは全英2位、全米首位と売れましたが、貯めのなさが次作から露呈してしまうのです。リイシュー盤としては、ジョージの死後の2006年にボーナス・トラック2曲(シングルB面の「DEEP BLUE」と「MISS O’DELL」)とDVD付きでリマスター盤がCDサイズの箱入りでリリースされて、2014年にはボーナス・トラックに「BANGLA DESH」のシングル・ヴァージョンが加わったリマスター盤がリリースされて、DVDはアップル時代の箱にまとめられました。「MISS O’DELL」は実在の秘書を歌った曲で、ジョージが途中で笑い出してしまう楽しい曲です。此のアルバムの裏ジャケットには、何故かドラマーのジム・ケルトナーのファン・クラブの会員募集告知が載っているのですが、ジム・ケルトナーの名前が羽のマークが半分にされて囲まれています。コレはですね、ポール・マッカートニー&ウイングスのアルバム「RED ROSE SPEEDWAY」の裏ジャケットに載っているウイングスのファン・クラブ告知のウイングスの羽のマークを真っ二つにしちゃった、ジョージのブラック・ジョークです。

(小島イコ)

posted by 栗 at 23:00| FAB4 | 更新情報をチェックする