ジョン・レノンが1970年12月11日にアップルからリリースした「JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND(ジョンの魂)」は、ビートルズ解散後のジョンの初めてのソロ・アルバムです。ソレまでジョンはヨーコと連名で前衛アルバムを3作と、プラスティック・オノ・バンド名義のライヴ盤をビートルズ時代にリリースして、シングル盤も3枚出していましたが、実質的な初ソロ・アルバムはコノ「ジョンの魂」であったと考えて良いでしょう。コノ作品の背景には、同年にジョンとヨーコが受けた精神科医のアーサー・ヤーノフによる精神療法プライマル・スクリームの影響が強いと云われていますが、元ビートルズのメンバーがアルバム「ABBEY ROAD」の次に何をするのか注目されていた中で、ジョンが選んだのは「ドラムはリンゴ・スター、ベースはクラウス・フォアマン、他には何もいらない」だったわけです。アルバムは、その通り、リンゴのドラムとクラウスのベースに、ジョンがギターもしくはピアノを弾いて歌うと云う、必要最低限の音となっています。内容は、A面が、1「MOTHER」、2「HOLD ON」、3「I FOUND OUT」、4「WORKING CLASS HERO」、5「ISOLATION」で、B面が、1「REMEMBER」、2「LOVE」、3「WELL WELL WELL」、4「LOOK AT ME」、5「GOD」、6「MY MUMMY'S DEAD」の、全11曲です。ジョン、クラウス、リンゴ以外には、フィル・スペクターが「LOVE」で、ビリー・プレストンが「GOD」で、それぞれピアノを弾いているだけです。プロデュースはジョン&ヨーコとフィル・スペクターとなっていますが、リンゴによれば「フィル・スペクターはレコーディング現場にはいなかった」らしく、レコーディング終盤でやって来て「LOVE」でピアノを弾いて、ビリー・プレストンを「GOD」でピアノを弾かせたらとアドバイスしただけの様です。
確かに「ジョンの魂」の音は、フィル・スペクターによる「WALL OF SOUND」の真逆を行くし、フィル・スペクターがガッツリと関わった次作アルバム「IMAGINE」を聴くと、こっちでは大して関わっていないであろう事は推察されます。「ジョンの魂」は、必要最低限の3ピースによる演奏に乗せたジョンの叫びや囁きからなる特異な作品で、ジョン自身ですら他に似ているアルバムがない程です。敢えて似ている作品を上げるならば、1974年の「WALLS AND BRIDGES(心の壁、愛の橋)」のリハーサルを収録した「MENLOVE AVE.」のB面でしょう。此のアルバムは、全英8位、全米6位と、元ビートルズのリーダーであるジョンとしては、些か低いセールスで、シングル「MOTHER」は、全米では「狂気じみている」と放送禁止になり43位までしか上がらず、英国では発売すらされていません。ちなみに、次のアルバム「IMAGINE」の表題曲も、1971年発表当時は「詞の内容が狂っている」とされて、英国では発売されていません。しかしながら、此のアルバムの価値はそんな当時のセールスなど超越したところにあり、ジョンの死後に出された4枚組のベスト盤「LENNON」には、なんと、「ジョンの魂」は全曲収録されています。此処に記録されたのは、正に「ジョンの魂」であり、ジョン・レノンにしか歌えない楽曲ばかりが並んでいます。自分を捨てた母親と父親に「行かないで、帰って来て」と叫び捲る「MOTHER」に始まり、「ビートルズを信じない、夢は終わった」とビートルズ幻想に終止符を打った「GOD」で終わり、最後にカセットテープの様な劣悪な音質での「MY MUMMY'S DEAD」で再び母親の死を歌う此のアルバムの構成は、ある意味ビートルズの「SGT. PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND」と同じとも云えます。
更に、激しい楽曲ばかりではなく、「LOVE」や「LOOK AT ME」の様な限りなく美しい小品も含まれていて、「LOVE」なんかはレターメンによるカヴァーが大ヒットしています。「I FOUND OUT」や「GOD」では、明らかにポール・マッカートニーを名指しで批判している部分もあって、ソレでポールは1971年の「RAM」でジョンを攻撃したわけで、ソレを受けてジョンも1971年の「HOW DO YOU SLEEP?」で応戦する泥沼の「SONG WAR」と発展してゆきます。ソレでポールが1971年の「DEAR FRIEND」で収めようとするわけですが、今では公式盤でも「DEAR FRIEND」のデモ音源が聴けて、録音が1970年になっているんですよ。つまり、ポールは最初からオチを考えていたわけですなあ。此のアルバムでは、リンゴ・スターが如何に素晴らしいドラマーであり、クラウス・フォアマンも素晴らしいベース・プレイヤーである事が分かります。これだけ音数が少ない上に、ジョンが書いて歌う曲は独特の手癖があって合わせる事すら大変なわけで、ジョンも其の辺は自分でも分かっていたから、リンゴとクラウスと云う云わば「身内」で固めたのでしょう。コレが出た事で、リンゴは「明るく楽しいビートルズのドラマー」を脱却したし、クラウスも「絵が上手いだけじゃない上手なベーシスト」と認識される様になりました。二人はジョージ・ハリスンの「ALL THINGS MUST PASS」にも参加していますし、ジョージはジョンのアルバム「IMAGINE」に参加するので、ポール以外の3人の関係は良好だったわけで、何だか可哀想になってきます。云わばポールは四面楚歌だったので、そりゃあ、少しは歌で批判したくもなりますわなあ。ところで、此のアルバムの裏ジャケの子どものジョンは可愛いですなあ。
(小島イコ)
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