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2023年06月15日

「ポールの道」#040「YESTERDAY AND TODAY」

Yesterday And Today - 3rd State


ビーチ・ボーイズの「PET SOUNDS」の素晴らしさが理解出来なかった米国キャピトルは、ビートルズのアルバムも水増ししていて、1966年6月20日には通称「ブッチャー・カヴァー」で有名な、もはや正気の沙汰とは思えない編集盤「YESTERDAY AND TODAY」をリリースしました。内容は、A面が、1「DRIVE MY CAR」、2「I'M ONLY SLEEPING」、3「NOWHERE MAN」、4「DR. ROBERT」、5「YESTERDAY」、6「ACT NATURALLY」で、B面が、1「AND YOUR BIRD CAN SING」、2「IF I NEEDED SOMEONE」、3「WE CAN WORK IT OUT」、4「WHAT GOES ON」、5「DAY TRIPPER」の全11曲入りです。「YESTERDAY」と「ACT NATURALLY」はアルバム「HELP !」から、「DRIVE MY CAR」と「NOWHERE MAN」と「IF I NEEDED SOMEONE」と「WHAT GOES ON」はアルバム「RUBBER SOUL」から、「WE CAN WORK IT OUT」と「DAY TRIPPER」は英国ではアルバム未収録だったシングルから、そして「I'M ONLY SLEEPING」と「DR. ROBERT」と「AND YOUR BIRD CAN SING」はまだ英国でもリリースされていなかったアルバム「REVOLVER」からと云う、どうやったらこんな滅茶苦茶な選曲と曲順になるんだと問い詰めたくもなるトンチキ盤です。11曲と英国盤よりも3曲も少ない上に、何も考えずに寄せ集めてみたであろう選曲のお陰で、リンゴの歌が2曲も入っています。ビートルズとしても、もう我慢の限界で、ほぼ確信犯的に醜悪な「ブッチャー・カヴァー」で応戦して、即回収されて「トランク・カヴァー」に差し代わるわけですが、ソレがまたテキトーで、なんとまあ、「ブッチャー・カヴァー」の上に「トランク・カヴァー」を貼り付けた盤も流通させちゃったりもしたので、ソレを剥がして「ブッチャー・カヴァー」にしたものまで存在するわけですよ。此のアルバムの「ブッチャー・カヴァー」は、ビートルズのアルバムでも特にレア・アイテムですが、ソレは内容への評価ではなくて、あくまでも回収されて数が少ない「カヴァー」が珍しいだけなのです。ちなみに、此の時点で英国盤オリジナルは6作で、米国キャピトル盤は10作目で、米国公式盤は12作目です。

此のアルバムは2014年の「THE U.S. BOX」にモノラルとステレオの2in1で収録され、ジャケットは「ブッチャー・カヴァー」で「トランク・カヴァー」をステッカーで付けると云う形態でしたが、内容はほとんどが2009年リマスターに差し替えられています。英国盤の「REVOLVER」から先出しさせられた3曲の「I'M ONLY SLEEPING」と「DR. ROBERT」と「AND YOUR BIRD CAN SING」は、まだ完成版のミックスではなくて、モノラルもステレオも英国盤の完成版とは違っていて、しかもステレオ・ミックスは間に合わず、疑似ステレオにして、途中からステレオに差し替えています。更に「WE CAN WORK IT OUT」と「DAY TRIPPER」のステレオ・ミックスも英国盤で2009年リマスターになるのとは違っています。ほとんどを2009年リマスターに差し替えているのはですね、元の米国盤を聴けば分かるのですが、何せ3作のアルバムと両A面シングルからバラバラに収録しているので、それぞれの音の感じが全く違っていて、もう酷くて聴けたもんじゃないんですよ。「HELP !」から「RUBBER SOUL」そして「REVOLVER」の時期には、ビートルズのレコーディングも急激に変化しているので、ソレをごった煮にされても、混乱するしかありません。更にキャピトルは此の後に「REVOLVER」もリリースしますが、ソレはですね、こっちで先出しした3曲を抜いた全11曲入りにしてしまったのです。先出しされた3曲は全てがジョンが中心になって書いた曲なので、米国盤の「REVOLVER」でのジョンの曲はたったの2曲になっているんですよ。「REVOLVER」にはジョージ・ハリスンの曲が3曲収録されているので、米国盤だとジョンよりもジョージの曲の方が多いのです。1969年ならいざ知らず、1966年でそりゃあないでしょ。ソレでジャケットもタイトルも英国盤と同じなんですから、もうね、詐欺みたいなもんと云うか、普通に詐欺ですよね。「THE U.S. BOX」には其の米国盤「REVOLVER」も収録されているんですけれど、単に英国盤オリジナルから3曲カットしただけなんですから、わざわざCD化する必要はなかったんじゃないですかね。それとも、キャピトルは「すいません、実は、こんなもんまで出してました」と懺悔でもしている心算なのでしょうか。

(小島イコ)

posted by 栗 at 21:00| FAB4 | 更新情報をチェックする