nana.812.png

2023年05月25日

「ポールの道」#019「A HARD DAY'S NIGHT」MOVIE



ビートルズの初主演映画「A HARD DAY'S NIGHT」は、1964年の夏に公開されました。ウォルター・シェンソンが製作し、後に「スーパーマン」を撮るリチャード・レスターが監督で、アラン・オーエンが脚本を書いたのですが、まるでドキュメンタリーの様な演出で、ビートルズの4人がファンに追っかけまわされたり、リンゴが警察に捕まって警官たちとビートルズが追いかけっこをしたり、兎に角、最初から最後までビートルズが走り捲ってライヴをやっているだけの映画なのですが、コレが面白いんだから、そりゃあもう、売れますわな。しかしながら、此の映画がモノクロなのは、アメリカで公開して失敗するのを恐れて低予算で済むからそうしたわけで、其のモノクロームの世界がこれまた初期のビートルズに合っていたと云う、偶然の産物だったのでした。如何にもビートルズ本人たちが日常で話しているかの様なセリフも、ジョンの幾つかのアドリブ以外は脚本通りだったりもします。それでですね、此の映画を観た事がある方々ならば、よくお分かりでしょうけれど、意図的に変な演出をされているんですよ。例えば列車に乗ったビートルズが客室で中年の英国紳士と乗り合わせてしまい、おじさんが煙たがって、ようやくビートルズが他の席に行ってくれたと思って窓の外を見ると、なんと、ビートルズが窓の外の道路を走って追っかけて来るとか、ジョンがお風呂に入っていてマネジャーが「早くあがってくれ」と頼みに来て、ジョンがバスタブに沈んで、栓を抜くと水と泡が全部流れて風呂が空っぽになっちゃって、マネジャーが呆然として「ジョン!」と云うと、横の部屋からバスローブを着たジョンがやって来るとか、所謂ひとつの英国風のジョークみたいな場面が多々あるのです。

アルバムの記事でも書きましたが、此の映画の主役はリンゴで、いえ、まあ、ビートルズの4人が主役ではあるのですが、特にフィーチャーされているのがリンゴで、ポールの祖父さん(ジョン・マッカートニー)にそそのかされてひとりで散歩に出掛けて、挙動不審だと警察に連れて行かれて、ポールの祖父さんも自分が代筆したインチキ・サイン入りの写真を売っていて警察に捕まって、他の3人が助けに行ってライヴに間に合って、最後はヘリコプターに乗って次の仕事に向かうって話なんですよ。それで、ビートルズの曲も流れたり実際にライヴをやったりしていて、サントラ盤に収録された曲以外にも「I WANNA BE YOUR MAN」「DON'T BOTHER ME」「ALL MY LOVING」「SHE LOVES YOU」も使われています。変なシーンと云えば、列車の中で「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER(恋する二人)」を演奏していて、ジョンとポールが二人で歌っているのですが、レコードと同じでジョンの声しか聴こえません。それと、列車に乗っている女の子のひとりがパティ・ボイドで、コレがキッカケでジョージと交際して結婚します。エキストラ参加と云えば少年時代のフィル・コリンズも観客で出ていて、解説しているんですけれど、ソレが「最高だったよ、ビートルズをただで観れたし、弁当も出たし」と云う本気なのかブリティッシュ・ジョークなのか分からない事を云っています。個人的に好きなシーンは、リンゴがテレビのスタッフにドラムを触られて怒っちゃっていると、ジョンがアコースティックギターで「IF I FELL(恋におちたら)」を弾いて歌い出して、リンゴが合わせてドラムを叩き始めると途端にリンゴがニコニコしちゃうところです。そう云えば映画「LET IT BE」でもリンゴは始終不機嫌な顔をしているのに、リンダの娘のヘザーとは遊んであげて、いいひとそうなんですよね。

(小島イコ)

posted by 栗 at 21:00| FAB4 | 更新情報をチェックする