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2023年05月24日

「ポールの道」#018「SOMETHING NEW」

SOMETHING NEW/LTD.EDIT


ビートルズの初主演映画のサントラ盤は、ブライアン・エプスタインがうっかり映画会社であるユナイテッド・アーティスツに販売権を渡してしまったので、キャピトル盤は出せなくなりました。コレはですね、1963年の秋に映画の企画が出た頃にはキャピトルはまだビートルズなんて相手にしていなかったからとも云えますが、やはりブライアン・エプスタインがプロのマネジャーではなく、ビートルズに対する愛情は誰にも負けなかったものの、所詮はマネジメントに関しては素人だったから起こったと思われます。それでですね、ユナイテッド・アーティスツから出たサントラ盤が首位街道を爆走中に、キャピトルは1964年7月20日にアルバム「SOMETHING NEW」をリリースするのでした。結果的に此のアルバムは2位止まりでしたが、其れはずっとサントラ盤が首位だった為です。内容は、英国盤の「A HARD DAY'S NIGHT」から「I’LL CRY INSTEAD」「THINGS WE SAID TODAY」「ANY TIME AT ALL」「WHEN I GET HOME」「TELL ME WHY」「AND I LOVE HER」「I’M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」「IF I FELL」の8曲と、EP「LONG TALL SALLY」から「SLOW DOWN」「MATCHBOX」の2曲と、ドイツ語の「I WANT TO HOLD YOUR HAND(抱きしめたい)」である「KOMM GIB MIR DEINE HAND」の全11曲入りですが、もう、何と申しますか、出鱈目な選曲だし、ジャケットも映画「A HARD DAY'S NIGHT」からではなく「エド・サリヴァン・ショー」に出演した時の写真を使っています。そもそもサントラ盤にも収録されている曲が5曲もダブっているのは、一体どんな契約だったのか理解に苦しみます。

それでですね、サントラ盤には収録されていてこっちには未収録なのが「A HARD DAY'S NIGHT」と「CAN'T BUY ME LOVE」と「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」なんですけれど、キャピトルは此の内の「CAN'T BUY ME LOVE」と「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」の2曲を、1970年の編集盤「HEY JUDE」に収録してしまうのです。1966年から1969年のシングル盤から選曲された「HEY JUDE」のA面冒頭2曲が1964年の2曲って、其の場違い感が半端ないのでした。そもそも英国盤の「A HARD DAY'S NIGHT」は、前回に取り上げた通りに全13曲が全て「レノン=マッカートニー」のオリジナル楽曲であるのが売りのひとつだったのに、此の「SOMETHING NEW」からはそんな事は全く感じられず、現にカヴァーが2曲も入っているし、何よりも不可思議なのは最後が何故かドイツ語の「抱きしめたい」である点です。キャピトルとしては、もうビートルズが演奏していたならば何だっていいや状態だったのでしょう。しかしながら、世界で最もいい加減なリリースをしていたのは他ならぬ日本でありましてですね、独自のシングル盤やEP盤を乱発するし、アルバム「ビートルズ No.5 !」には「シー・ラヴズ・ユー」と「抱きしめたい」のドイツ語版が2曲共に収録されているのでした。アルバム「SOMETHING NEW」は2004年に「THE CAPITOL ALBUMS VOL. 1」にモノラルとステレオのオリジナルが2in1で収録され、2014年の「THE U.S. BOX」では2009年リマスター音源に差し替えられていますので、「THE CAPITOL ALBUMS」の存在意義はあります。

(小島イコ)

posted by 栗 at 21:00| FAB4 | 更新情報をチェックする