1963年に本国である英国を制覇し、1964年に全米を制覇したビートルズは、1964年3月2日に初主演映画にクランクインしました。映画の企画は前年である1963年秋には始まっていて、其の時には半年後にビートルズが全米制覇して全世界を制覇しているなどとは想像出来ず、マネジャーのブライアン・エプスタインはサントラ盤の発売権まで映画会社のユナイテッド・アーティスツに与えてしまいます。ソレで、1964年6月26日に、英国盤よりも早くユナイテッド・アーティスツから北米限定で「A HARD DAY'S NIGHT」のサントラ盤がリリースされたのです。サントラ盤なので、ビートルズによる楽曲は「A HARD DAY'S NIGHT」「TELL ME WHY」「I CRY INSTEAD」「I’M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU」「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」「IF I FELL」「AND I LOVE HER」「CAN'T BUY ME LOVE」の8曲(「I CRY INSTEAD」は「I’LL CRY INSTEAD」の表記違いで同じ曲)で、後の「I SHOULD HAVE KNOWN BETTER」「AND I LOVE HER」「RINGO’S THEME(THIS BOY)」「A HARD DAY'S NIGHT」の4曲はジョージ・マーティンによるオーケストラのインストゥルメンタルで、全12曲入りです。つまりは、これこそが純然たる「オリジナル・サウンド・トラック」盤なのでした。しかしながら、此のサントラ盤は実際に北米限定発売で、本国である英国でも、何でもかんでも発売している日本でも、レコードは未発売なのでした。ところが、インストの「RINGO’S THEME(THIS BOY)」は、インストの「AND I LOVE HER」とのカップリングで、シングル盤が日本も含む各国でリリースされてもいます。モノラル盤だと、「I’LL CRY INSTEAD」のモノラルはロング・ヴァージョンで、「AND I LOVE HER」のモノラルも別ミックスです。
問題は、此のアルバムがユナイテッド・アーティスツから出ている為に起きた様々な珍事にあります。まずは、1987年の全世界統一CD化では当然ながら無視されて、2004年の「THE CAPITOL ALBUMS VOL. 1」でもキャピトル盤ではない為に外されました。ようやくCD化されたのは、2014年の「THE U.S. BOX」なのでした。ソレでですね、以前から書いていますが「THE U.S. BOX」は米国のオリジナル音源を英国仕様の2009年リマスター音源に差し替えているので、当然の如くオリジナル音源ではないのです。つまりは、此のサントラ盤はオリジナル音源では公式盤CDとしてはリリースされておりません。其の理由としてはですね、実際に聴いた事がある方々ならばご存知でしょうけれど、此のサントラ盤のステレオ音源は全てが疑似ステレオで、しかもモノラル音源が左右にパンされている奇怪な代物なのです。ジョージ・マーティンによるインストだけがトゥルーステレオなので、気になって仕方ありません。「THE U.S. BOX」や「ミート・ザ・ビートルズ <JAPAN BOX>」などの箱で、中途半端に音源を2009年リマスターに差し替えてしまったので、其の辺は直ぐにブートレグの餌食となりました。あたくしもレーベル表記すらない「SOMETHING NEW / A HARD DAY'S NIGHT」のステレオ盤とか、「dap」の「THE U.S. ALBUM RARITIES」とか、「SWEET ZAPPLE」の「JAPAN CLASSICS」などを持っていて、補完しています。「THE U.S. ALBUM RARITIES」は2枚組全59曲入りで、「THE U.S. BOX」がリリースされた2014年に待ってましたとばかりに出ていて、差し替えられる前の音源に戻しているだけです。「JAPAN CLASSICS」は「ミート・ザ・ビートルズ <JAPAN BOX>」よりも前に出ていたと思いますが、内容を予言したが如く「ビートルズ!」「ビートルズ No.2!」「ビートルズ No.5」全曲に日本独自の別ミックスを加えた2枚組全55曲入りです。
(小島イコ)
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