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2023年03月23日

「ナイアガラ考」#61「大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK」(下)



前回は大絶賛した「大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK」ですが、勿論、不満もあります。まず「大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK」ですが、そもそも大瀧師匠は提供曲をセルフカヴァーする事には消極的でした。存命中には、曲が足りなくて渋々やった「あの娘に御用心」とか、英語詞に変えた「夏のリビエラ」など、ごく僅かで、提供した歌い手さん用に書いているのでセルフカヴァーは滅多にやらなかったのです。其れを死後になって「DEBUT AGAIN」や「Happy Ending」や今回の「大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK」とかで発表してしまったのは、果たして良かったのかどうかです。セルフカヴァーではなく、ガイドヴォーカル音源であるこれらの音源を、新作でございますと毎年蔵出ししちゃうのは、どうにも腑に落ちません。1曲目の「NIAGARA ROCK’N’ ROLL ONDO」に関しては1978年のライヴ音源であって、コレがあると云う事はですね、「NIAGARA CALENDAR’78」を全曲披露したと云われているライヴ音源は全てあると云う事なのです。他のライヴも大瀧師匠ですから、かなりマルチを回してレコーディングもしていたと考えられます。そう云うのをですね、今後も小出しにし続ける心算なのでしょうか。そして、他のガイドヴォーカル音源も、ほとんどの提供曲であるわけで、聖子ちゃんに書いた他の曲とか、まだあるわけで、そもそも今回の「大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK」は「DEBUT AGAIN」と合わせて出す事だって出来たはずなんですよね。今回の「あの娘に御用心」は、大瀧師匠がタツローとコーラスをしているのですが、本当に声がそっくりで、最後の方で大瀧師匠がバディ・ホリーの曲でビートルズもカヴァーした「ワーズ・オブ・ラヴ」をハミングしていたりもします。

出来栄えとしては2枚目の「NIAGARA ONDO BOOK」全19曲の方が、気分もスッキリ楽しめるのですけれど、こっちの方も色々と問題があります。ソニーと現在のナイアガラとしては、1枚目同様に「初収録未発表音源」に拘った様で、とんねるず用の曲や小高桂子さん用の曲は正真正銘の未発表音源ではあります。しかしながら、他の楽曲もオリジナルは入手困難なレア曲ばかりなのです。「レッツ・オンド・アゲン」からは1曲も入っていないのはリイシュー盤があるので良いとして、「LET'S ONDO AGAIN SPECIAL」は入手困難なので、そっちの曲とかはオリジナルで良かったのではないでしょうか。更に「EIICHI OHTAKI Song Book I -大瀧詠一 作品集 Vol.1」と「EIICHI OHTAKI Song Book II -大瀧詠一作品集 Vol.2」の収録曲とダブった楽曲に関しては、全てが別ヴァージョンになっているのですが、もうコレって完全にマニア向けを狙っているとしか思えません。確かにナイアガラーの方々はマニアックであるとは思いますが、これからナイアガラを聴こうと思っている方々にとっては、実に不親切で敷居が高い作品になっていると思います。それでも最後の方のクレイジーキャッツの「実年行進曲」から植木屋と三波先生の「新二十一世紀音頭」へと畳み掛ける展開には圧倒されますし、最後の細川たかしさんヴァージョンの「Let’s ONDO Again」なんかは、聴いていて感動して泣きそうになりました。まさかアレを聴いて泣く日が来るとは、思ってもみなかったし、大瀧師匠がメロディ路線とノベルティ路線は実は同じなのだと云う考えに至ったのも理解出来た気がします。2枚組で約4千円の価格は、好きな方には安い買い物でしょうが、うっかり手を出すと火傷しますよ。

(小島イコ)

posted by 栗 at 21:00| ONDO | 更新情報をチェックする