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2023年03月18日

「ナイアガラ考」#56「SPACY」



ナイアガラの歩みを追うコノ連載では、ナイアガラの周辺ミュージシャンの作品も取り上げていますが、タツローやター坊などはもう最初から音楽性や志向が固まっている事もあって、SUGAR BABEと解散後のファースト・ソロアルバムだけで充分かとも思いました。しかしながら、タツローの2枚目である「SPACY」は、1977年6月25日にRCA/RVCから発売されていて、其れは大瀧詠一師匠がプロデュースしたシリア・ポールさんの「夢で逢えたら」と同日なのです。アルバム「夢で逢えたら」は、ナイアガラから去ったタツローが全編でストリングスアレンジを担当していて、其れは「SPACY」と相通じるわけで、取り上げておかなければなりません。ファースト・ソロアルバム「CIRCUS TOWN」で片面をプロデュースしたチャーリー・カレロが書いたスコアを幸運にも持ち帰る事を許され、帰国後は其れを元に本格的にストリングスの勉強をしたそうです。タツローは結局は1970年代は最後までナイアガラから発売された作品に携わっていて、まあ、其の後に関しては今更語る必要もないでしょう。コレでのタツローは、ドラムに村上ポンタ秀一さん、ベースに細野晴臣さん、ギターに松木恒秀さん、キーボードに佐藤博さんと云う最強の布陣と、ドラムにユカリ、ベースに田中さん、キーボードに教授、ギターはタツロー本人での同世代とレコーディングを行いました。

現在では参加ミュージシャンの豪華絢爛な名前を聞くだけで、とんでもない傑作が生まれたと思われるでしょう。しかしながら、当時のランキングでは59位止まりで、ランキングだけを見ても「CIRCUS TOWN」の50位よりもダウンしていて、まあ、1枚目も2枚目も売れなかったのです。A面トップの「LOVE SPACE」はライヴ盤でも有名な名曲のひとつとなったし、A面最後の「DANCER」なんかは「僕らはみんな逆立ちのダンサー」と云う詞を「ぼくらはみんな、かだちのだんさー」と歌っている辺りは大瀧師匠の邪教の影響が伺えます。B面最後の「SOLID SLIDER」は、アルバムでは7分を超える長尺な曲ですが、実にスリリングな演奏で聴かせます。一発録音でキメたリードギターは、大村憲司さんです。タツローによるひとり多重録音も此のアルバム辺りから本格化していて、其れは前年の大瀧師匠による「Jack Tones」も彷彿とさせますし、教授が関わっているからか、全体的に当時流行していたクロスオーバーとかフュージョンとかAORとかと通じていて、其れは次の月に発売されるター坊の2枚目「SUNSHOWER」とも、実は類似しているのです。元々が同じバンドにいたわけで、しかも起用するミュージシャンも被っているので、そこにSUGAR BABEの香りはなくとも、音楽的には似た様な方向性へと行ったのでしょう。

(小島イコ)

posted by 栗 at 21:00| ONDO | 更新情報をチェックする