大瀧詠一師匠の作品にはありがちですが、「GO! GO! NIAGARA」も発売当時は色々と云われていました。まず云えるのは歌詞カードが入っていなくて、代わりに手書きのライナーノーツが付いているのですが、コレがラジオ番組「GO! GO! NIAGARA」にリスナーが投稿したニセモノと申しますか、内容を予想して書いたモノをそのまんま載せてしまったのです。其の辺はヘビーリスナーの所謂ひとつのナイアガラーの方々には喜ばれたでしょうけれど、何せ中味と全く違う解説書が付いているわけですから、普通の人なら困惑するしかありません。歌詞カードもない上に、此のアルバムのメロディータイプの2曲「こんな時、あの娘がいてくれたらナァ」と「今宵こそ」はフィル・スペクターを意識して、深いエコーがかかっていて大瀧師匠のヴォーカルが聴き取りにくいのです。全13トラックが収録されたものの、テーマ曲やジングルも含めたトラック数で、それらを除くと「趣味趣味音楽」と「あの娘に御用心」と「こいの滝渡り」と「こんな時、あの娘がいてくれたらナァ」と「針切り男」と「ニコニコ笑って」と「Cobra Twist」と「今宵こそ」で、8曲しかないのです。故に、30分位で終わってしまいます。そして、此のアルバムはA面とB面があるアナログ盤では当然の事であった仕掛けがあって、A面の最後の呟きや、B面の最初のDJなどがCDだとよく分からない事となっております。其の辺の事をクリアしようとCD向けにリミックスしたのが吉田保さんによる1986年盤だったのですが、やはりオリジナルマスターは「味(タツロー談)」があるわけで、1996年のスリムケース廉価盤では大瀧師匠が自らリミックスをしています。
其れでもやはりA面最後の呟きとかB面最後のテーマ曲などは省略もしくは短縮していて、2006年の30周年記念盤でようやくアナログ盤と同内容となりました。B面の最後には、なんとまあ、次作である「NIAGARA CM Special」の予告がされていて、こんな事をやらかすのは後にも先にも大瀧師匠しかおりません。コロムビアに移籍して「NIAGARA TRIANGLE Vol.1」はソコソコ売れたらしく、年間4枚の契約は此のアルバムと同日に「SONGS」と「NIAGARA MOON」を再発する事で守れたのですが、前述の通り沢田研二さんに書いた「あの娘に御用心」のセルフカヴァーをやりたくないのにやってしまうなど、「NIAGARA TRIANGLE Vol.1」でも「GO! GO! NIAGARA」でも曲が足りない事となっています。「あの娘に御用心」はハーマンズ・ハーミッツの邦題からの引用ですが、「ニコニコ笑って」の歌詞にある「ハートがドキドキ」と「朝からゴキゲン」もハーマンズ・ハーミッツの邦題です。「あの娘に御用心」に関してはジュリーこと沢田研二さんがシングルにする話もあったそうで、かつて大瀧師匠は「日本語が明快なジュリーが、僕の仮歌に引っ張られて聴き取れなくなった」などと云っていたのですが、後にリハーサルの歌を間違って本チャンに採用していたと発覚しています。後の「Song Book U」には本番の歌をリミックスしたヴァージョンを入れているので、元のヴァージョンがレアになっちゃう辺りもナイアガラです。ボーナストラックの「土曜の夜の恋人に」は、1970年代に唯一ナイアガラの曲をかけてくれていたDJ馬場こずえさんのラジオ番組「こずえの深夜営業」のテーマ曲です。歌詞カードがない上にインチキ解説書まで付けてふざけているのに、元ネタとも云える「Dedication」は本気度が高く、アントニオ猪木とモハメド・アリの名前もあります。1976年は「猪木VSアリ」が行われた年なのでした。(つづく)
(小島イコ)