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2023年02月28日

「ナイアガラ考」#38「トロピカル・ダンディー」



1975年は、1月に小坂忠さんの「ほうろう」が、3月に鈴木茂さんの「BAND WAGON」が、4月にSUGAR BABEの「SONGS」が、そして5月には大瀧詠一師匠の「NIAGARA MOON」、6月20日には荒井由実さんの「COBALT HOUR」と来て、6月25日には細野晴臣さんの2枚目のアルバム「トロピカル・ダンディー」がクラウンから発売されました。大滝師匠の「NIAGARA MOON」も問題作でしたが、此の「トロピカル・ダンディー」もかなり衝撃的なアルバムです。細野さんと云えば、はっぴいえんど時代の「風をあつめて」や、ファースト・ソロアルバムでの「恋は桃色」と云ったフォークロック風な作風だったのですが、此の「トロピカル・ダンディー」はそれらをちゃぶ台をひっくり返したが如く変貌しています。YMOでの細野さんしか知らないと、逆にはっぴいえんどでの作風の方が違っていたかの様に感じられる程に、ここから始まった無国籍音楽は不可思議なムードを感じさせられる「へんちくりん」なモノとなっています。作詞作曲編曲に加えて、細野さんが歌い楽器もマルチプレイヤーとしてベースだけではなくメロトロン、マリンバ、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、クラヴィネット、カウベル、ホイッスル、コーラスと様々な楽器を演奏した上に、ギターが茂、ドラムが林立夫さん、キーボードの松任谷正隆さんと佐藤博さん、スティール・ギターの駒沢裕城さん、ギターで銀次、パーカッションに浜口茂外也さん、ストリングスアレンジで矢野誠さん、ゲストヴォーカルで吉田美奈子さんと久保田真琴さん、コーラスにシンガーズ・スリーの伊集加代子さんと云ったティン・パン・アレー系のミュージシャンが勢揃いしています。

「絹街道」では南こうせつさんがコーラスで参加しているのですが、まあ、当時は同じレコード会社だったので、ひょっこり参加したのかもしれません。半年の間に6枚もの「元・はっぴいえんど」で「ナイアガラ系」と「ティン・パン・アレー系」のアルバムが発表されたのですから、只事ではないと思わされますけれど、当時は全く売れませんでした。前にも書きましたが、当時ティン・パン・アレー系で売れたのはユーミンだけです。個別では取り上げませんが、1975年6月20日にはユーミンこと荒井由実さんの「COBALT HOUR」も発売されていて、バックはティン・パン・アレーでコーラスでSUGAR BABEのタツローとター坊や美奈子が参加していて、特にタツローの声がデカくて目立ちます。その他は全て後年に再評価されたのであって、タツローですらSUGAR BABEでは全く売れず、ソロになってもなかなか売れず、ブレイクしたのは1980年の「RIDE ON TIME」だったのです。細野さんも1978年のYMOまでは売れていなかったし、YMOもデビューアルバムでは其れほどには売れず、爆発したのは翌1979年の「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」からでした。細野さんはソロになる前のはっぴいえんど時代から「脱・松本隆」を実践していて、其れは大瀧師匠と同じだったわけですが、小坂忠さんに書いた曲では松本さんと組んでおりました。茂に至っては、ずっと松本さんの詞を歌っていました。そうなるとですね、やはり大瀧師匠が偏屈だったと思わされます。それでも細野さんも此のアルバムからはかなりハチャメチャな事になっておりましてですね、特に1か月も経たずに発表された「NIAGARA MOON」と「トロピカル・ダンディー」はバックが同じなので、地続きとなっております。

(小島イコ)

posted by 栗 at 21:00| ONDO | 更新情報をチェックする