片瀬那奈ちゃんの舞台挨拶をお目当てに新宿バルト9に行った6月5日、案の定の展開であたくしは中古CDを買いました。五枚で税込み三千円(一枚六百円)と「一枚五百円以下」とはいかなかったものの、安い事には変わり在りませんナァ。二日後の6月7日は、ボブ・ウェルチの一周忌だったので、フリートウッド・マック絡みが三枚で、後は御馴染みのリンダ・ロンシュタットとラトルズです。リンダとラトルズはそれぞれ五百円だったので、「一枚五百円以下」の禁を破ったのはフリートウッド・マックって事になりますね。はい、「ORIGINAL ALBUM SERIES」五枚組で何故か抜けていた「ペンギン」が九百円だったので、犯人は「ペンギン」です。ま、ボブ・ウェルチの一周忌なのだから大目にみて下さいナ。
其れで、もう二人の犯人は、千百円で二枚組(一枚五百五十円)の「バッキンガム・ニックス」と云うカップルでした。1974年12月に、ボブ・ウェルチはフリートウッド・マックを辞めます。当時のマックは、ボブ・ウェルチ主導体制となっていて、彼が在籍した最後のアルバム「クリスタルの謎(Heroes Are Hard to Find)」(1974年9月発表)では、全11曲中7曲を彼が書いております(残り4曲はクリスティン・マクヴィー作)。脱退間近のライヴ音源を聴いても、加入前のナムバーなどもボブ・ウェルチがギターを弾き歌い、完全なるフロント・マンでした。当時のマックは、ミック・フリートウッド(ドラムス)、ジョン・マクヴィー(ベース)、クリスティン・マクヴィー(ヴォーカル、キーボード)、ボブ・ウェルチ(ヴォーカル、ギター)の四人になっており、結成時のブルース・ロック・バンドをアメリカン・ポップ路線へ変貌させたのはボブ・ウェルチの功績だと云われております。
ボブ・ウェルチが脱退した直後の1975年1月に、余りにも大きな穴を埋める為にリーダーのミック・フリートウッドはリンジー・バッキンガムを誘います。しかし、リンジーは高校時代からの恋人で既に二人で「バッキンガム・ニックス」として1973年にデビューしていた相方のスティーヴィー・ニックスも一緒じゃなきゃイヤだ!とゴネて、云わばオマケとしてニックスも参加する事になりました。ところが、コレが大当たり!1975年の「ファンタスティック・マック(Fleetwood Mac)」がバカ売れし、1977年の「噂(Rumours)」は全米チャート年間首位!でグラミー賞受賞!と云うウルトラ・メガ・ヒット作となったのです。一方、大成功直前で辞めて、何を思ったか3ピースの「パリス」と云うハード・ロック・バンドを結成し二枚のアルバムを発表するも鳴かず飛ばずだったボブ・ウェルチですけど、メムバーに逃げられ、ほとんど一人で多重録音して「パリス3」として制作していた1977年の「フレンチ・キッス」がバカ売れします。
実は、ボブ・ウェルチは喧嘩別れして脱退したのではなく、脱退後もフリートウッド・マック・ファミリーとして関係は良好で、ソロ作ではマック時代の曲もリメイクし、フリートウッド・マックのメムバーも参加しています。入れ替わりで加入した「バッキンガム・ニックス」までもが客演しているのですよ。さて、前置きが長くなりましたが、あたくしが買ったのは「BUKINGHAM NICKS FROM THE BEGINNING」と云う名の二枚組CDRブートです。ジャケットがアナログ盤の「BUKINGHAM NICKS」(たぶんCD化されていない)と同じだったので、アナログ落としかと思いました。ところが、内容は1974年に制作されていたとされる幻のセカンド・アルバム用デモと、1975年1月に二人がマックに加入した当時のライヴ音源でした。前述の通り、当初はスティーヴィー・ニックスを加入させようとは思っていなかったミック・フリートウッドは、リンジー・バッキンガムに嘆願されて渋々ニックスもツアーに帯同させたのです。
正に、如何にして「バッキンガム・ニックス」が「フリートウッド・マック」に吸収され、其の二人とクリスティン・マクヴィーの三枚看板で大成功を収める事となる前夜のドキュメンタリー音源となっております。1975年1月のライヴ音源は、入ったばかりなのに、もう既にマックに溶け込んだ「バッキンガム・ニックス」が居ます。1974年の「Coffee Plant Demos」での「バッキンガム・ニックス」は生々しいのですが、作風は二人とも一貫しています。其れが「フリートウッド・マック」へ加わった途端に、明らかに「フリートウッド・マック」の音楽に一瞬にして変わるのです。メムバー交代が目まぐるしく、しかも脱退してしまうのが実質的なフロントばかりと云う「不可思議なバンド」ですが、バンド名となった「ドラムとベースの二人」だけがバンドを辞めず、ずっと「フリートウッド・マック」であり続けている「謎」が解ける様な気がします。
(小島藺子)