w & m:LENNON / McCARTNEY
P:ジョージ・マーティン
E:ジェフ・エマリック
2E:ジョン・カーランダー
録音:1969年4月14日(「The Ballad Of John And Yoko(They're Gonna Crucify Me)」take 1-11)
STEREO MIX:1969年4月14日(take 10 より 1-5)
1969年5月30日 英国シングル発売(最高位、英国1位、米国8位)
アップル(パーロフォン) R 5786(ステレオ)
ジョン・レノンが、ヨーコと再婚(1969年3月20日)した顛末を書いた楽曲です。時事性が高い内容でもあり、レコーディングからステレオ・ミックスまで、1969年4月14日に行われ、5月30日にはシングルA面曲としてリリースされました。其れゆえなのか、此の曲の録音は、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの二人だけで行われています。録音当日に、ジョージ・ハリスンは休暇中で英国には居らず、リンゴ・スターは映画「マジック・クリスチャン」の撮影中でした。ところが、ジョンは一刻も早く此の曲を録音したくて盟友・ポールを誘い、ポールもホイホイと駆けつけ、チャッカリと二人だけで録音し、在ろう事か其れを「ビートルズのシングル」として発表してしまったのです。ちなみに邦題は「バラード」となっていますが、勿論「バラッド」の「完全なる誤訳」です。どこが「バラード」なのよさ。曲を聴かずに邦題を付けたのでありましょうかしらん。
そして、ジョンとポールだけなのに、サウンドは完璧な「ビートルズ」になっております。ベーシック・トラックは、ジョンがアコーステイック・ギター、ポールがドラムスで行われました。其のセッション中に、ジョンがポールに「テンポを上げろよ、リンゴ!」と云い、其れを受けたポールがジョンに「OK ! ジョージ!」と返したりして、実に和気藹々としています。此の時期は、悪夢の「THE GET BACK SESSIONS」が終わり、既に後に「ABBEY ROAD」となるアルバムへの録音も始まっていました。但し、状況的には最悪と云える時期で、最早「ビートルズ解散」は時間の問題かとも思われる時でした。其れなのに、ポールはジョンの提案に乗り、ガッツリとサポートしたのです。
演奏に関しては、ジョンがリード・ヴォーカル、アコースティック・ギター、パーカッションを担当した以外は、ポールがドラムス、ベース、ピアノ、コーラス、マラカス、リード・ギターと八面六臂の大活躍をしたようです。リード・ギターはジョンが弾いたとも云われておりますし、おそらく録音中にはジョンも担当したのでしょうけど、レコードで聴けるのはポールが弾いていると思われます。其のギターでのエンディング・フレーズが、ジョニー・バーネット・トリオの「Lonesome Tears In My Eyes」からのモロパクで、曲調もかなり似ています。ビートルズは「LIVE AT BBC」でも聴ける通り、無名時代からレパートリーとしており、ジョンが歌っています。余りにも大胆で、清々しい「パクリ」じゃまいか。
前作シングルである「GET BACK」が発売(1969年4月11日)されてから、僅か三日後に録音され、未だ発売後一ヶ月半の「GET BACK」が売れ捲くっていた時に強引に発売されました。アメリカでは、ポールも難色を示したと云われる歌詞の「Christ! you know it ain't easy, You know how hard it can be. The way things are going They're gonna crucify me」によって放送禁止となったりもして、最高8位とビートルズとしては些か不本意な記録となりましたが、本国イギリスでは堂々と三週連続で首位を獲得しています。ジョンとポールだけで「ビートルズ」を名乗った「やっつけ仕事」が普通に売れちゃったのですから、ジョージとリンゴの立場はありませんよっ。
そして、此のシングルからビートルズは「ステレオ・ミックス」しか行わなくなります。ゆえに、以後の楽曲には基本的にはモノラル・ミックスは存在しません。此の時期(1969年4月)は、非常に混沌としておりましてですね、グリン・ジョンズは懸命にアルバム「GET BACK」の制作を行っており、対してビートルズは「THE GET BACK SESSIONS」の延長線で当時から演奏していた楽曲(「I WANT YOU(She's So Heavy)」、「OLD BROWN SHOE」、「SOMETHING」、「OH! DARLING」、「OCTOPUS'S GARDEN」など)の録音を進めていました。其れがいつから「ABBEY ROAD」と発展するのかは定かではないものの、「THE GET BACK SESSIONS」からのシングル「GET BACK」を打ち消すように急遽「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」が発売された後に、間違いなく彼らは「ABBEY ROAD」を意識します。ジョンとポールの微笑ましい楽曲(皮肉にも、内容は「ジョンとヨーコの噺」であり、よくぞ、ポールが全面協力したもんです)に乗せて、物語は、とうとう終盤へと向うのでした。
(小島藺子/鳴海ルナ)