

w & m:LENNON / McCARTNEY
P:クリス・トーマス(9/23-26)、ジョージ・マーティン(10/15)
E:ケン・スコット
2E:マイク・シーディ(9/23-26)、ジョン・スミス(10/15)
録音:1968年9月23日(「Happiness Is A Warm Gun In Your Hand」 take 1-45)、
1968年9月24日(「Happiness Is A Warm Gun In Your Hand」 take 46-70)、
1968年9月25日(take 53 & take 65 を編集した take 65 に SI
「歌、コーラス、オルガン、ピアノ、チューバ、ドラム、タンバリン、ベース」)
MONO MIX:1968年9月25日(take 65 より 1-2)、9月26日(take 65 より 3-12)
STEREO MIX:1968年10月15日(take 65 より 1-4)
1968年11月22日 アルバム発売 (「THE BEATLES」 A-8)
アップル(パーロフォン) PMC 7067-7068(モノ)、PCS 7067-7068(ステレオ)
ジョン・レノンが別々に書いた三曲をつなぎ合わせ、70ものテイクを録音した中から切り張りし音を重ねて仕上げた楽曲。「ホワイト・アルバム」A面の最後を飾る傑作で、ポール・マッカートニーは「ホワイト・アルバムの最高傑作!」と絶賛しています。全く別の曲を繋ぎ、僅か三分にも満たない内にメロディーもリズムも目まぐるしく変化する此の楽曲の発想は、ポールに大きな影響を与えました。其れが後に「ABBEY ROAD」での「YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY」や、WINGS での大傑作「BAND ON THE RUN」の曲想へ活かされています。曲調も変化しますが、途中でギターとドラムが別のリズムを取る「ポリリズム」を用いてもいて、通して演奏するのは困難な楽曲です。「ホワイト・アルバム」は二枚組で非常にバラエティに富む内容ですが、此の楽曲は其れを一曲の中で表現しており、アルバムを象徴しているとも云えるでしょう。
特筆すべきなのは、此の三曲をつなぎ合わせた楽曲はジョンがスタジオに持ち込みレコーディングを始めた「take 1」の段階で既に完成版と同じ構成になっていた事です。「アンソロジー3」などで聴けるデモの段階ではまだ別々の曲だったのですが、正式に録音する時には曲想が完璧に出来上がっていたのです。ゆえに「HAPPINESS IS A WARM GUN」は、ブライアン・ウイルソンが「GOOD VIBRATIONS」を創り上げたのとは全く違う構想で、ジョン・レノンが発明した独特の楽曲です。ジョンは「ロックンロールの歴史みたいなもの」と語っておりますが、「三分間の魔法」である大衆音楽の範疇でこんなとんでもない発想を取り入れてしまった才気は凄すぎます。此の楽曲は、たったの「2分43秒」しかないのです。其れなのに、何と云う豊潤な世界なのか。
正に「奇才・ジョン・レノン、此処にあり」と云えるでしょう。曲想が変化するのはプログレッシブ・ロックなどでは普通ですが、其れは「長げぇ(片瀬那奈ちゃん声で)」しクラシックやジャズからの影響です。ジョンがやらかしたのは、あくまでもたった三分以内のポップスやロケンロールの枠に、複雑怪奇な展開をぶち込むと云う荒業でした。最後の基本的な循環コードで歌われるパートの開放感が素晴らしい。ジョンの絶唱に、何度聴いてもゾクゾクさせられます。本当に、歌が上手い!内容はドラッグの影響も強く、かなり性的な表現も多用しております。デモで分かる通り、ジョンはヨーコを対象としています。アメリカでは放送禁止にされ、アルバムにも警告ステッカーが貼られてしまいました。録音はジョージ・マーティンが休暇中に行われたので、プロデューサーはクリス・トーマスとなっています。マーティンはステレオ・ミックスに立ち会っただけです。
然し、前述した通り、クリス・トーマスは「ただ、居ただけ」で、実質的にはビートルズがセルフ・プロデュースした楽曲です。演奏は、紛れも無く「ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター」の四人で行われ、複雑なポリリズムを二日間で70テイクも繰り返し、そこからベスト・テイクを繋ぎ合わせ、四人で丹念に音を重ねて完成しています。三日間、ビートルズは「HAPPINESS IS A WARM GUN」のレコーディングに没頭しました。そして出来上がったのが、たった「2分43秒」の完成版です。ジョージ・マーティンは「ホワイト・アルバムは、一枚にまとめるべきだ」と主張しましたが、自分が全く関わっていないとは云え、此の曲を外す気はなかったでしょう。「HAPPINESS IS A WARM GUN」は、何十年経っても色褪せない、ビートルズの大傑作です。
(小島藺子)
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