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2011年12月14日

「AFTER THE BEATLES」其の拾捌

バック・イン・ザ・USSR Traveling Wilburys 1 Flowers in the Dirt


所謂ひとつの「ジョン・バレット・テープ」流出音源を最初に聴いたのは「The Beatles Live at Abbey Road」と云う二枚組のアナログ・ブートでした。1985年頃に海賊盤も扱っていた仙台の輸入盤屋さんで見つけ、店長さんに「アノ、コレ1983年って書いてありますけど、ビートルズって1970年に解散したんじゃないんですか?」と訊いたら、店長さんは「まあ、面白い音源だから騙されたと思って買ってよ」と応えたのです。曲目は馴染みのナムバーがタイプされていて、藍色の単色刷りで安っぽい出来栄えでしたが、ついつい六千円くらい出して買ってしまいました。そして針を落として吃驚仰天したわけです。其れはアビイ・ロード・スタジオでのプレゼン「The Beatles Live at Abbey Road」を隠し録りしたと思われる音源で、其れまで聴いた事のなかったアウト・テイクがゴッソリと聴けたのでした。

1988年に、ビートルズの海賊盤史を根底から覆してしまった「Ultra Rare Trax」が発売されました。其れは隠し録りではなく、どう考えてもマスターからコピーされたとしか思えない程に高音質なアウト・テイク集だったのです。「Ultra Rare Trax」を初めて聴いた時には「一体、あたくしは今まで何をやって来たのだ?」と劣悪な海賊盤に投資して来た過去を悔やみました。海賊盤もCDの時代と移り、「Ultra Rare Trax」に続いて「Unsurpassed Masters」も出まして、もう貪る様に西新宿へ通う日々となるのでした。コレって、「Ultra Rare Trax」以後からブートに出逢った方々には分からない感覚だと思います。白ジャケットにコピーのペラペラな紙が貼り付けられたアナログ・ブートに散々騙されたからこそ、高音質の本物に出逢った時の感動が何十万光年倍も大きかったのです。

そんな「ブートレグ祭り」突入の1988年10月に、ポールは前回でも触れたロケンロール・カヴァー・セッションをソ連限定で発表しました。当然乍ら、其れは海賊盤業者にとって美味しいネタとなりますが、1991年になって公式盤が全世界発売されるのでした。内容は、ほとんどが一発録りのセッションで、ジョンの名盤カヴァー集「ロックン・ロール」とは比べられないものではあります。同じ1988年10月には「Traveling Wilburys」なる謎のバンドがデビューしました。正体は「ジョージ・ハリスン、ロイ・オービソン、ジェフ・リン、トム・ペティ、ボブ・ディラン」と云うトンデモな面子が変名で結成したバンドでした。ジョージは「クラウド・ナイン」の成功で余裕が出て、こんな夢の様なバンドまで結成してしまったのです。そもそも「クラウド・ナイン」からの第三弾シングル「THIS IS LOVE」のB面用に集まったらしいのですが、こんな豪華なセッションをシングルのB面企画として発想することが「ぶっ飛んで」おります。

さて、ポールは1989年6月にアルバム「Flowers In The Dirt」を発表しました。前作の低迷にもめげずにレコーディングを続けたポールは、エルビス・コステロと云う新たな相棒と出会い「まるで、ジョンと一緒に曲を書いている様だ」と新たな創作意欲が爆発しました。二人の共作曲は11曲にも及び、それぞれのシングル1枚とアルバム4枚に分散されて収録されます。「Flowers In The Dirt」には4曲(後にボーナス・トラックでシングルB面だった「Back On My Feet」も加え5曲となる)が収められましたが、他のポール単独作の出来も素晴らしく、傑作アルバムとなりました。英国チャートでは堂々の首位を獲得し、自信を持ったポールは全世界ツアーを開始するのでした。


(小島藺子)



posted by 栗 at 15:53| FAB4 | 更新情報をチェックする