1987年に、ビートルズの英国オリジナル・アルバムがCD化されました。例外として米国編集盤だった「Magical Mystery Tour」を加えた13作(14枚)に、1988年にアルバム未収録曲を集めた「Past Masters Vol.1」と「Past Masters Vol.2」が出て、一応公式楽曲は全てCD化となったのです。ところが、其れは「此れが全てで他は認めない」と云う「全世界統一音源化」でもありました。つまり、初期の四枚はモノラルのみで、中期の「HELP !」と「Rubber Soul」はジョージ・マーティンがリミックスしたステレオのみで、其の後はステレオのみと云うわけなのです。此の「音源統一化」は、後に海賊盤業者に「別ミックス」と云う市場を与えてしまいます。そして、なな、なんとビートルズのCDは、2009年までリマスターされずに20年以上も売られ続けたのでした。
当時は「CDは音が良いし、半永久なのだ!」なんぞと云う出鱈目が喧伝されておりましたので、レコードからCDへと大衆は誘導されました。あたくしも「ビートルズのCD化」で当時はアナログからCDへ変節してしまったのですが、すぐに「アレ?そんなに音が良いわけじゃないんじゃないのかしらん」と気付かされました。確か、10ccのCDを聴いてマルチトラック・コーラスがアナログよりも全くヘッポコに聴こえたのがキッカケだったと記憶しております。ビートルズも「音源統一化」と云うのが気に入らなかったのだ。もう、当時は「ミックス違い」の面白さが分かっていましたからね。とか何とか云いながら、CDは嬉々として買ったわけだが。
そんな「ビートルズCD化祭り」の年であった1987年の11月に、ポールはベスト盤「ALL THE BEST !」を発売しました。アナログは二枚組20曲入りで、CDは一枚に17曲入りとお徳用ながら各国盤で収録曲が違う仕様でした。ポールとしては、此処で一区切りつけておきたかったのかもしれません。内容は、文句なしの大ヒット曲が連なる「正にベスト盤」ではありました。英国盤に収録された新曲「Once Upon A Long Ago」が、其の後の展開を予感させてもおります。前作「Press To Play」の後に、映画主題歌シングル「Spies Like Us」からフィル・ラモーンがプロデュースし「Once Upon A Long Ago」も制作されたのですが、其のシングルB面曲「Back On My Feet」はエルビス・コステロとの共作でした。さらに、1987年7月には一発録りのロックン・ロール・カヴァー・セッションも行っており、其れは1988年にソ連限定発売のアルバムとして発表され、1991年に全世界発売されます。
同じく1987年11月に、ジョージが五年振りのアルバム「クラウド・ナイン」を発表しました。ELOのジェフ・リンと共同制作した此の復帰作は、ジョージによる「ひとりビートルズ」とも云える会心の出来栄えで大ヒットし、息子ダーニの薦めでシングル・カットしたと云われるカヴァー曲「セット・オン・ユー」は、なな、なんと全米首位を獲得してしまいました。第二弾シングル「FAB」は完全なるビートルズのパロディで、プロモでは、リンゴ(本人)、ポール(せいうちのコスプレ姿)、ジョン(「イマジン」の裏ジャケ)と共演し「擬似再結成」までしております。一時は完全に音楽業界から引退したと思われたジョージが、大逆転の復活劇を成し遂げてしまったのです。矢張り、ジョージは貯めが在れば爆発すると証明されました。結果的に此の作品が、生前のジョージにとっては「最後のオリジナル・ソロ・アルバム」となってしまうのですけどね。
ビートルズのCD化が完結した1988年には、10月にジョンの記録映画「イマジン」が公開されました。其のサントラ盤も発売されましたが、内容はビートルズ時代も含めた全キャリアのベスト盤とも云える内容となっています。冒頭の「Real Love」は後にビートルズ作品として再生される曲の様々なデモ音源のひとつで、「イマジン」のリハーサル・テイクや「A DAY IN THE LIFE」のイントロから聴ける完全版なども収録されています。映画は、当時も現在も涙なしでは観られない内容ですが「記録マニア」だったジョンならではの「驚愕すべき映像記録」となっています。ラリったヒッピーが自宅に押しかけて来たのを追い返さずに、ジョンは本人と向き合って対話するのです。そして納得させると「腹へってないか?」と云って自宅へ入れて一緒に食事しちゃうのだよ。なんて無防備で真摯な人なのでしょう。こんなにも無垢だから「イマジン」なんてトンデモな歌を書いたんだと思います。アノ曲は「内容がキチガイじみている」との理由で、発表当時は英国ではシングル化もされなかったのですよ。
(小島藺子)
【関連する記事】