1985年にEMIはビートルズの未発表音源を集めた「Sessions」と云うアルバムを発売しようと計画しましたが、ビートルズ側により却下されます。アビイ・ロード・スタジオでのプレゼン「The Beatles Live at Abbey Road」とアルバム「Sessions」に向けて、1981年からエンジニアのジョン・バレットが膨大な録音テープの完全な収集と整理を行ったのですが、どうやら其の作業中に何者かがテープをコピーした模様です。其れが、1988年から驚愕音源での海賊盤「Ultra Rare Trax」や「Unsurpassed Masters」へと流出します。1988年から1992年にはヨーコが提供した音源を元にしたラジオ番組「THE LOST LENNON TAPES」が放送され、其れを元にしたジョンの高音質な海賊盤も出回ります。散々フェイク音源や劣悪な音質のブートに大枚を叩いて泣かされて来たマニアには、正に夢の様な時代が始まるのでした。公式では、1987年から遂にビートルズのCD化が実現します。
そんな1980年代後期の「ビートルズ大逆襲」を前にした1986年2月に、ジョンの「Live in New York City」が発売されました。此れは、1972年8月30日に行われた「ワン・トゥ・ワン・コンサート」の実況盤で、レコードとヴィデオで15年近く経って公式に発表されました。ジョンにとってソロでの唯一の大規模な実演で、正式に録音され撮影もされたものです。然し、ジョンは出来栄えに納得せずお蔵入りしてしまったのでした。つまり、此れもジョンが生きていれば公開されなかった作品でしょう。1986年11月には「メンローヴ・アヴェニュー」も発売されました。「年に二作もジョンの新作発表!」と云えば嬉しくなりますが、ジョンは死んでしまったわけでして、こちらは「ロックン・ロール」と「心の壁、愛の橋」でのボツ音源集です。ボツとは云え、流石はレノンで聴かせますし、特にアナログでB面の「心の壁、愛の橋」のリハーサル音源はシンプルな演奏で「ジョンの魂」を彷彿とさせる迫力があります。こうした未発表音源を聴けば「もっと聴きたい!」となるわけで、其れが「THE LOST LENNON TAPES」へと繋がってゆきます。
さて、そんな中、ポールは1986年9月にアルバム「Press To Play」を発表します。エリック・スチュワートと半数以上の曲を共作し、プロデューサーにはヒュー・パジャムを起用し新たな音作りに挑んだ作品でしたが、世間はポールにそんな事は求めていなかったのです。結果、英国では8位とまずまずでしたが、米国では30位と「天下のポール・マッカートニー」とは思えない散々なセールスとなってしまいました。出来栄えはそんなに酷くないし、エリックとの共作はとっても好いと思うのですけどね。此の時に共作して使われなかった曲をエリックは後に「10cc」で発表していますが、ポールは「何だか分からない印税の振込みがあったけど、エリックだったのかい?じゃあ、もっとボツになった曲をレコードにして儲けさせておくれよ」と云ったそうです。約10年後に発表した名曲「Beautiful Night」も、実は此のアルバムの頃にはほとんど完成していた曲でした。
新作はコケたポールですが「プリンス・トラスト 1986」でWINGS解散以来のステージに立ち(前年の「LIVE AID」での「LET IT BE」は、当時は「無かった事」にされた)ビートルズ・ナムバーを熱唱し大受けした事で、再びライヴへの意欲を取り戻します。「プリンス・トラスト 1987」にはジョージとリンゴが出演し、復活の兆しをみせます。リンゴはポールのアルバムや映画で見てましたけど、ジョージはもう完全に音楽業界からは足を洗ったかとも思えておりましたので、嬉しかったです。そして前述の通り、ビートルズのアルバムが1987年からCD化され売れ捲くります。世の中をアナログからCDへと変えてしまったのは「ビートルズのCD化」だとまで云われました。そんな機運に乗って「元・ビートルズ」の残された三人も盛り上がってゆくのです。
(小島藺子)
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