コンビニ本で出るのを期待していたのですが、うっかり古本屋さんで全六巻が1,500円で売られていたので「大食い甲子園」を買って一気に読んでしまいましたよっ。土山しげる作品は「喰いしん坊!」でハマって以来貪る様に読んでいますが、矢張り「喰いしん坊!」が最も好きです。次に好きなのは「食キング」ですけど、「喰いしん坊!」の大食いをテーマにした世界観が図抜けて面白いっ。続けて連載された「ばくめし !」は再び料理人が主役だったので、イマイチと思えました。「極道めし」も悪くはないのですけど、「喰いしん坊!」の莫迦莫迦しさには及びません。そして、改めて大食いをテーマとして昨年(2010年)から今年(2011年)まで連載されたのが「大食い甲子園」なのです。
物語は「大食い」が競技として認められ、プロのフードファイターが多く存在するどころか「大食い甲子園」と云う高校生の全国大会まで長く続いている世界で展開します。主人公の盛山空太郎は、かつて「大食い甲子園」で優勝確実と云われた有望選手でしたが、在る事情で「賭け大食い」をしてしまい出場停止となった過去を持ちます。彼が「岡山県立桃太郎高校」の「大食い部」顧問となり、かつては「大食い甲子園」で優勝したものの現在では地区大会初戦敗退の弱小校となった「桃太郎高校」を再び「大食い甲子園」へ導くのでした。
前半は高校野球マンガのパロディの様な展開で、「大食い部」のメムバーが集まるストーリーが進みます。ところが、メムバーが揃った後半になって「いきなりだナァ」と「空界」が登場します。なな、なんと其れは「喰いしん坊!」の「空念」が成長し住職になった姿なのです。さあ、こうなったらもう止まりません。「桃太郎高校」のライバル校でダークホースとして勝ち上がってゆく「美作五輪学院」の監督は「ハンター錠二」だったのでしたっ。つまり、此の作品は、
「喰いしん坊!」から十余年を経た
未来世界を描いた「SF」だったのだっ。
ズガーン!なんじゃ、そりゃ?
今や「全日本フードファイター(AJFF)」の代表になったと思われる「大原満太郎」もチラリと登場し、「ハンター錠二」を幹部へ誘うものの「野にいる若い逸材を、、、あの時のお前の様に鍛えてみたい」と全く無名だった「五輪学院」の監督になっていたのでした。なんと云う強引な力技!コレはたまげたよ。
作品としては其の「ハンター錠二」が再び登場し、空太郎と「カツ丼勝負」をする辺りが最高のクライマックスとなり、其の後の「桃太郎 VS 五輪」での地区大会決勝よりもチカラが入り捲くっております。挙句に肝心の「大食い甲子園」出場の描写は一切ないと云う物凄い展開でラストを迎えます。もう、どー考えても土山先生は「ハンター錠二」をもういちど描きたくて「大食い甲子園」を執筆されたとしか思えませんよっ。「大原満太郎」ではなく「ハンター錠二」の其の後を描いたところが素晴らしい。面白さから云えば「喰いしん坊!」には劣るものの、連なった壮大な空想世界を描いた快作です。「喰いしん坊!」から「大食い甲子園」までのストーリーは謎が多く、まだまだ沢山のエピソードが描けるでしょう。其れにしても分からないのは、単行本全六巻すべてで表紙を飾る人物です。一体、彼は何者なのでしょう?
(小島藺子)