ビーチ・ボーイズの幻の作品「SMiLE」が、45年の時を超えて公式盤として発表されてしまいました。全く以って長生きはするもので御座居ます。CD1枚の通常盤、箱入りCD二枚組、アナログ二枚組、更にCD五枚アナログ二枚EP二枚の計九枚入り豪華箱入りと多様な形態での発売となりましたが、とりあえず通常輸入盤を購入しました。と申しますのも、1966年から1967年に制作され、途中でブライアンが「ラリラリパッパラパー」になって頓挫したと云われる此の音源は、散々ブートレグで買い捲り内容は知っているからです。
1967年に未発表になったものの、シングル「GOOD VIBRATIONS」を始め音源は小出しに正式発表され、其れらの完成度が高いゆえに「もしも完全版が出ていたならロックの歴史は変わっていた」と云われ続けました。2004年にはブライアンがソロ作品として新録で発表しましたが、あたくしは正直に云って「幻は幻の侭にして欲しかったナァ」と思ったものです。ところが、今度は当時の音源での公式盤が出てしまったのです。海賊盤の音源も年々向上しておりましたが、矢張り公式盤には敵わないと思われますので、買ってしまったわけだよ。うわあ、無茶苦茶に音がええじゃまいか。
果たして本編と云える通常盤の内容は、1966年に構想された「SMiLE」を当時の音源を中心にして音も磨いて創りあげた労作でした。「Cabin Essence」や「Surf's Up」などは後にカールのヴォーカルを加えて完成された音源になっていますし、結構リミックスもされているみたいですが、確かに1966年から1971年頃までの録音が元になっている様で、少なくともブライアンの2004年版「SMiLE」とは比較にならないクオリティだと思います。でもですね、此れが当時完成して発表されていたとしても売れなかったでしょうね。
前作「PET SOUNDS」ですら当時は評価が低かったわけで、こんなトンデモ音楽が受け入れられたとは到底思えません。此れだけ綺麗にまとめても、やっぱり「SMiLE」は完全にイカレています。音楽が、余りにも美しく発狂しているのです。おそらく、あたくしが聴いたロックでは桁違いで別格の「キチガイ音楽」が「SMiLE」です。今回の公式盤を聴いても「やっぱり、キチガイだわ」とメルモちゃん声で呟いてしまいました。「SMiLE」を聴けば、ジョンとヨーコの前衛音楽も「おこちゃまのお遊び」と思えます。「SMiLE」は完全に狂っているのに、其れでも限りなく美しい音楽として成立しているのです。こんなモンを簡単に手に入れられる様にするって「犯罪」ですよ。よいこのみんなは、決してうっかり聴いたりしないでね。間違って箱なんか買っちゃダメですよ。あたくしは、たぶん買うけどさ。
(小島藺子)