生まれて初めて買ったアルバムはビートルズの「オールディーズ」です。LPは当時でも2千円以上して、中学生にはかなり高価でした。だから500円のシングル盤や700円のコンパクト盤を買ったりFMでエアチェックしたり友達に借りたりしていたんだけど、やはりLPが欲しくなりますよね。それで「ビートルズのアルバムならどれがいいかな」って一生懸命考えて、本当は赤盤や青盤が欲しかったけど2枚組で凄く高かったので、16曲入ってる「オールディーズ」にしたのです。そう、ベスト盤です。「イエスタデイ」と「ミッシェル」が入って居たし、とにかく知ってるのが多くて良さそうなのばっか16曲ってのが良かった。そりゃそーだ、ベスト盤なんだもん。当時はビートルズのアルバム順とかさっぱり分らなくて、とにかく沢山聴きたかったんです。で、次に買ったのが「アビイ・ロード」で、此れも16曲入っていたのと「オールディーズ」とダブる曲がなかったからです。
でも「アビイ・ロード」は買って失敗したなぁーと思いましたね。最初の方は良い曲だなぁと聴いてたけど、A面最後はなんかおっかない長い曲が入っていて突然終わってしまうし(心臓が止まるかと思うくらい吃驚しました)、B面はなにがなんだか分らないまま(メドレーってのが全く理解出来なかったんです)終わったかと思ったら、突然「じゃーーん!!」とか始まってすぐきれちゃうし、なんじゃこりゃ?って感じでした。其れで此れなら大丈夫と保証付きのシングル「レット・イット・ビー」のB面とかも意味が分らなくて、折角お金をためて買ったのにとても悔しくなりました。
其れでも、もっとビートルズが聴きたかった。でも、今では名曲だと思って居る中期以降の曲の多くは、最初は怖いって印象しかなかった。「トゥモロー・ネバー・ノウズ」も「アイ・アム・ザ・ウォルラス」も「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」も「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」も、中学生の僕は「もう二度と聴きたくない」と思いました。なのに、何故、ビートルズを今でも聴いているんだろうなぁ。 1970年代中頃、解散後にビートルズのファンになったので新しいアルバムを心待ちにするってことは無いと思ってました。其の頃、一番新しい作品は1973年に出た例の赤盤と青盤で、此れは海賊盤ベストがバカ売れしたので対策としてジョージに選曲させた公式ベスト盤と云われています。ベスト盤まで出てしまったのだから「後はもう無いだろう」と思いますよ。
其れに、当時はメムバー4人がソロとウイングスで頑張っていて、ビートルズ的な新曲なら充分過ぎる程のリリース・ラッシュだったし、そもそも現役時代の作品の順番すらも理解していなかったのです。何しろ、レコード時代は沢山の編集盤が出てましたからね。情報も出鱈目で、「レノン・マッカートニー作品は、ジョンが作詞でポールが作曲」とか平気で書かれていました。解散の原因とかもよく解ってなかったし、リンゴのアルバムに他の3人が参加したりして再結成も現実味を帯びた話でしたから、もしも新作があるなら「其のカタチ(再結成)なのかなぁ」なんて、無邪気に夢もみれたんです。
ところが、1976年に「ROCK'N'ROLL MUSIC」と言う「ビートルズの新作」が発売されたのです。いやぁ驚きました、まぁ編集盤なんですけど「おや、もしかしたら此れからも新作が出てしまうのかな?」なんて思ったもんです。だから自分にとっては最初の新作だったんですけど未CD化なんですよねぇ。此の時期は、レノンさんが引退していたので(当時は「主夫になって育児に専念してる事になっていた」なんて知らなかったです)ポールは頑張ってたけど、ジョージもリンゴもネタ切れ状態でしたから、タイミングが良かったんです。1975年にはジョン、1976年にはジョージとリンゴ、そして1978年にはポール(ウイングス名義だけどなんとA面一曲目にソロ作品を入れたことで結局すべてポールのソロに聴こえる)のソロ・ベスト盤が出たので、何かが始まる予感もありました。
1975年にAppleとのレコーディング契約が切れてしまったんです。そしてポールが訴えていた「パートナーシップ解消」も認められたんですね。だからもうビートルズのメムバーは他のレコード会社に移籍出来るってことになったわけで、ポール、ジョージ、リンゴはそれぞれ別の会社と契約して、ジョンは何処とも契約しなかったんです。それでEMIが過去のカタログの再利用権を得て「さぁまた儲けさせてもらおーじゃねぇーか」と大人の事情があったわけです。
案の定、1977年には「LIVE AT HOLLYWOOD BOWL」(1964年と1965年のライヴを編集した唯一の公式ライヴ盤で何故か未CD化)とふたつ目の編集盤が出ました。其れが「LOVE SONGS」です。此れも未CD化。解散してベスト盤、ロケンロール集、ライヴ盤、バラッド中心のラヴ・ソング集と来ましたから、もうないだろーと思いましたね。でも翌1978年には英国盤LPボックスが、其の次1979年には「RARITIES」(シングルやEPのみ収録曲集)が単品で、続く1980年には米盤の「RARITIES」(米盤未収録曲とレア音源集)と「BALLADS」(バラッド集「LOVE SONGS」の二番煎じ)と毎年出るわ出るわ、挙げ句にジョンが亡くなってしまいます。「たられば」の余談ですけど、再結成は確実にあるはずでした。ジョンが望んでいたと、今なら分かります。裁判記録で明言したなんて事じゃなく、「パパはビートルズだったの?」と訊かれ、ポールの曲を聴いて復帰したのですから。
もう其れから四半世紀経つのだけど、御存知の通り毎年の様にビートルズの新作は発売されています。10年前には新曲まで出ました。世の中には「LOVE SONG」が溢れています。ビートルズにも愛のうたは沢山あるけれど、どーも「LOVE SONGS」って編集盤は甘ったるくて当時は苦手でしたね。今はCDでも持っていますけど(おいおい未CD化じゃないのか?)、「此れも好い」と思える様になりました。其れにしても、何故、こんなにも人は「LOVE SONG」が必要なんでしょう。
(小島藺子)
初出「COPY CONTROL」
「LOVE SONGS」(2004-9-23)
「OLDIES」(2004-9-29)
「LOVE SONGS」(2004-9-23)
「OLDIES」(2004-9-29)
(編集:鳴海ルナ)