ビートルズを聴けば聴くほど、好きな曲ってのは増えていきます。ソロになってからも沢山ええ曲は在ります。で、ひとに「ビートルズで好きな曲は何?」なんて訊かれると、ついつい、其の時の気分で「I NEED YOU」とか「WHAT YOU'RE DOING」とか「ASK ME WHY」とか一寸マイナーな曲を答えてしまったりもします。いや、其れは全て本当で「ビートルズに駄曲は無い」んだから仕方ない。
かつて古巣に「ビートルズのベスト3」ってスレが在って、「YESTERDAY」「HEY JUDE」「LET IT BE」とレスしました。半分洒落だけど、半分は本気です。「抱きしめたい」も「SHE LOVES YOU」も「HELP !」も大好きです。「1」に入ってる曲は全部最高ですよ。これらの大ヒット曲がなければ、きっとあたくしはビートルズを聴いていません。
其の事実に気付いたのは、ポールのライヴを初めて観た時でした。其の時あたくしは29歳で、ポールを生で観るってのは自分の青春に決着を付ける儀式だと思って居たんです。当然、隣に居るおねーちゃんなど関係なしに最初から大合唱大会ですよ。ビートルズだろーが、ウイングスだろーが、ソロだろーが、全部歌えます。いや、もう歌わずにはおれんのですよ。あたくしは「此の日の為に15年間聴いて来たんだっ!!」ってな気分でした。もう至福の時でしたね。で、いよいよ「LET IT BE」が来たんですよ、こりゃ誰でも歌えますな。「今日の誓い」とかでポカーンとしてた隣のおねーちゃんもイントロを聴いて「あ、これ知ってる」ってニコニコですよ。
なのに、肝心のあたくしは声を失ってしまったのです。正に呆然と立ち尽くすとは、アレですね。絶句するくらい物凄い歌でした。「天国から鳴り響く音楽」だと思いました。結局、其の時あたくしは「LET IT BE」と「YESTERDAY」だけは歌えなかったんですけど、「YESTERDAY」の方はお約束のマナーってことで口パクしてたんです。唯一「LET IT BE」だけは、完全に拝聴してただけで、其れは其れ以後のポールのライヴでも同じなんです。あたしは、きっと一生ポールと一緒に「LET IT BE」を歌えないと思います。
ちなみに「LET IT BE」のCD音源をどのくらい持ってるのか、さっき数えてみました。ビートルズだけで50を超えたあたりで止めました。ポールやカヴァーを加えたら、百は軽く超えそうです。きっと、あたしが一番所有して居る曲は「LET IT BE」なんでしょう。あと、ポールがチャリティー・ライヴで必ず此の曲を歌うのも、好きなんですよ。だって、歌詞を考えたら「一番似合わない」じゃない。(ポールってシニカルなんだよね、テロの時には「I'M DOWN」を歌ったんだもん。酷過ぎる。でも、そこがええ。)兎に角「レリビー、サイコー!!」ってこった。
さて、「LET IT BE」の歌詞が最後まで決まらなかったって話は、前にもチラッと書きました。1969年1月31日のレコーディングの、最後の最後で、やっとポールは現在聴かれる歌詞を完成したのです。所謂ひとつの「三番」で「朝、音楽に導かれ起きたら〜」と云う感動的な部分ですが、其れは最終テイクで初めて歌われたのでした。「take27」と呼ばれるのが其れで、つまりビートルズは此の時しか「完全なカタチ」での「LET IT BE」を演奏していません。
此の曲は、かつて現在ほど別テイクなんかが一般的でなかった時代にビートルズを聴き始めた誰もが「此れ、違う!」って気付くふたつのヴァージョンが現役時代に公式発売された、とても稀な例なんですね。シングルとアルバムで明らかに違うわけですよ。耳が在るひとなら、絶対に気が付く差が在ります。そして其れは、ジョージ・マーティンとフィル・スペクターと云う世紀を代表するふたりのプロデューサーによる闘いの記録でも在るわけです。
然し乍ら、元になった演奏は「ふたつ」しか存在しません。其れが「take27」です。あれ?それじゃ「ひとつ」じゃないかって?はい、そうです。シングルもアルバムも「take27」の最初の演奏に何らかのオーバーダビングを加えて完成されたのです。でも映画の「LET IT BE」を観るとポールの歌い方が違うことに気付くはずです。なな、なんと「take27」は二回続けて演奏されたんですね。其の二回目の「take27」が映画で使われたわけです。マーティンとスペクターが「同じ素材で勝負した」から面白かったんです。此れは「ACROSS THE UNIVERSE」も同様でして、あくまでも同じテイクからってのが、後出しであるフィル・スペクターの意地が伺えて好いですね。これらのヴァージョン違いが同一テイクから作られたと気付いた時、ひとは泥沼に入って行くのです。
「LET IT BE」は「ANTHOLOGY 3」と「NAKED」のヴァージョンも、公式として発表されました。
「ANTHOLOGY 3」の方は、25日に演奏された完全な別テイクです。聴いてみて下さい、ね、歌詞が完成してないでしょ。そして「NAKED」は「裸のビートルズ」と云う謳い文句なのに、なんとまぁベースとなるのが「ふたつ在るtake27」を合体させたモノです。当初の計画であった「オーバーダビングをしない」なんてコンセプトは、カケラも残って居ません。でも、幻のアルバム「GET BACK」が在るじゃないかって話になりますね。残念ながら、其れですら唯一「LET IT BE」だけはオーバーダビングされて居るんですよ。「GET BACK」を潰したのは、此の曲なんですね。結局、タイトルまで乗っ取ってしまったんですから。
何が駄目だったのかは、オリジナルの「take27」を聴けば明白です。其れは、間奏の「愛するジョージ」のギター・ソロですよ。「NAKED」で其れが聴ける様になりましたが、此れはホントにジョージが納得しての事だったのでしょうか?ポールにイヤになるほどダメ出しされ、何度もギター・ソロを録音し直して、最後までマーティンやスペクターと関わったジョージの努力で完成されたシングルとアルバムの立場が無いじゃないの。とほほ。
まとめますと「LET IT BE」のビートルズとしての公式音源は、4種類在ります。其れはシングル、アルバム、アンソロ3、NAKED で在って、全て「ステレオ」音源です。ビートルズはシングル盤はモノで、アルバムはモノとステレオで出していたのだけど、シングルの「GET BACK / DON'T LET ME DOWN」を最後にモノを出すのはやめてしまったのです。(此のシングルはステレオ盤も在ります。)ですから「ABBEY ROAD」と「LET IT BE」には(厳密に云うならステレオをモノにしただけの「YELLOW SUBMARINE」も)純粋なモノラル盤は存在しません。
何を云い出すんだ?って思うかもしれませんけど、個人的に「重要」な事なんです。と云うのは、あたくしが最初に手に入れたビートルズのシングル盤が「LET IT BE / YOU KNOW MY NAME」だったからなのだ。其れは「STEREO」って書いて在るのに「モノラル」だったんですよ。B面の「YOU KNOW MY NAME」は、ステレオが無い!(アンソロで公開されたロング・ヴァージョンはステレオなのに肝心のエンディングがカットされています。)のが有名ですけど、「LET IT BE」のモノラルなんて在るわけないんです。マスターがないんですから。なのに、モノラル。もちろんアルバムはステレオなんだけど、ヴァージョンが違うんですよ。当時は知識なんかないので、素直にシングル盤はモノラルなんだなって思って聴いていたわけです。
ところが、青盤を聴いて「LET IT BE」はシングルもステレオだったんだっ!!と分ってしまったのだ。何故か日本でだけ、モノラルで発売されていたんです。当然マスターがないから、ステレオをモノにしただけなんですけど、なんでこんなことが?って話ですよ。盤起こしだったなんて噂も聞きました。でも、其のインチキ盤を何回も聴いて居たわけで、愛着は在ります。永遠に公式CD化されない「インチキ日本盤シングル」ですけど、当然、あたくしは海賊盤CD音源まで持っています。「やっぱ、レリビーは此れだな」って、たまには聴きたいからね。
(小島藺子)
初出「COPY CONTROL」
「LET IT BE」(2005-6-25)
「LET IT BE -take27-」(2005-6-26)
「LET IT BE -mono-」(2005-6-27)
「LET IT BE」(2005-6-25)
「LET IT BE -take27-」(2005-6-26)
「LET IT BE -mono-」(2005-6-27)
(編集:鳴海ルナ)