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2011年09月03日

「ビートルズ小辞典」の奇妙な世界

改訂・増補新版 ビートルズ事典


1973年にTHE BEATLESの公式ベスト盤「赤盤」と「青盤」が発売されたのは、当時「AΩ」なる非公式ベスト盤(所謂ひとつの海賊盤)が爆発的に売れ捲くってしまった事への対抗策だったと云われています。現在でも、公式盤と海賊盤の終わりなき不毛な戦いは続いておりますが、世の中には「ハーフ・オフィシャル盤」なるカモノハシの様なブツも存在するのです。

其れは、駅の売店とかデパートのワゴンセールとかで販売されている公式盤よりも安価な盤です。内容は公式盤をコピーした「パイレート盤」でありまして、音源的な面白味はほとんどないのですけど、たまに「何じゃ、こりゃ」と思えるモノもあったりします。何故か一曲目に「A DAY IN THE LIFE」しかもアウトロ付き!を収録したベスト盤とか奇怪な代物も在る世界ですが、今回は「ビートルズ小辞典」なる三枚組をご紹介しましょう。

かつては「1977年まではコピーして売ってもいい」との決まりだったのが、20年ほど前に「1967年まで」と取り締まりが強化されました。其れで、当時は未だCD化されていなかった「赤盤」と「青盤」のコピー盤は駆逐されたのです。其れからは「ビートルズ大全集」などと謳っても「マジカル・ミステリー・ツアー」までしか収められず、「ヘイ・ジュード」も「レット・イット・ビー」も聴けない「へっぽこベスト盤」しか作れなくなったのだ。其れじゃ困るね。

そこで、「ビートルズ小辞典」の登場です。此れは、一枚に20曲ずつ計60曲をアルファベット順に並べたベスト盤です。「赤盤」と「青盤」に近いものの、B面やカヴァー曲なども加えた渋めな選曲ですが、なな、なんと堂々と「1968年以降」の楽曲も入っているのです。「ヘイ・ジュード」も「レット・イット・ビー」も、ちゃんと聴けるのですよ。此れにはカラクリがありまして、「1968年以降」の楽曲は「海賊盤からのコピー」なのでした。「アンサパ(UNSURPASSED MASTERS)」音源(なな、なんと海賊盤なのに「ハーフ・オフィシャル盤」としても流通していたトンデモ音源)を混ぜて、何とか全キャリアからのベスト盤をでっち上げたわけです。ゆえに、何も知らずに安いからとうっかり買った初心者に、いきなりだナァとレアなアウトロ付きの「サムシング」とか、カウント入りの「レット・イット・ビー(未だ三番の歌詞が無い!)」とか、オーケストラ抜きの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」とかを聴かせてしまったトンデモ盤となったのでした。

更に不可解なのは、正規盤音源を使用可能な「ドゥ・ユー・ウォント・ノウ・ア・シークレット」も「アンサパ」音源を収録したりしている点です。カヴァー曲は兎も角として、B面曲から「サンキュー・ガール」なんて超マイナーな曲を選んでいたりと、かなり「へんてこりん」なのだ。後、こうした「ハーフ・オフィシャル盤」は音源はコピー可能でもジャケットは肖像権が絡むから「イラスト」とか「風景写真」とか「クラシックカーの絵」とか「ユニオンジャックにシルエット」とかでお茶を濁すのに、此の「ビートルズ小辞典」は堂々と本物の写真を載せているのです。其れにしても、歌詞カードの「カタカナ英語」が強烈過ぎますよ。読んでいたら、眩暈がしました。


(小島藺子)


posted by 栗 at 16:27| FAB4 | 更新情報をチェックする