
奈落の底にいる。思えば、此処まで来るのは苦行の連続だったナァと懐古している。色んな事があった。何度も挫けたけれど、何とか辿り着いたのだ。そう、アノ難関を抜けるのは大変だったナァ。どんな凄まじい激闘だったのかは、すっかり忘れているのだけど、兎に角、此処に居るのだから好いのだろう。
其れにしても、全く何にも無い空間だ。ごろりと寝転がると天井が見えた。嗚呼、よく子供の頃に「さかさま」になって天井を歩いてみたいって思っていたっけ。地獄なら平気だろ、出来るかもしれない。そう、此処は地獄なのだ。本当の地獄は何にも無い処だった。途中で血の海とか鬼とかにやられた連中は此処まで来れなかったのだ。
僕は「さかさま」になって、天井を歩いている。公園の噴水が弾けて赤ん坊が泣いたので、うっかり墜落した。「おっと、いけない、還らなきゃ」と、内緒の地獄への道をゆく。何度もクリアしたコースだから平気なのだ。行き着けない連中が、風船みたいに浮かんで行く。「莫迦だナァ、堕ちるんだから重くなくっちゃダメじゃん。体重の問題じゃないんだよ、うふふふ、、、」と思いっきり好い気になって奈落の底へ堕ちてゆく。其処には何も無い。
(姫川未亜)