DVDで観る「僕たちの好きだった革命」は、鴻上さんも語る様に実際の舞台の「20%」位しか伝えられません。然し乍ら、副音声での片瀬クンの解説が面白いので全く別の作品として楽しめます。片瀬クンは歌手時代にもほぼ全曲解説を自ら語っていて、そちらも自分を客観視した冷めた目線が優れものだと思います。
さて、此処から羽織を脱いでまたプロレスの話題に行くのですけど、ま、お好きな片だけ読んで頂戴。プロレスの解説は、プロレスマスコミ関係者が担当するのが通例で現在でも脈々と引き継がれています。そんな中で元レスラーの遠藤幸吉に滅茶苦茶な解説をやらせた猪木は、自分には絶対服従の鬼軍曹・山本小鉄を無理矢理引退させて解説者にしました。「もしも海外遠征で猪木さんがピストルで撃たれたなら、僕が盾になって守りますよ。当たり前の事です」とまで真顔で語る小鉄は、現役に未練を残し乍らも猪木の命令に従い引退し、レモンちゃんの通信教育で語りを学んで解説者になりました。
小鉄以降はレスラーや元レスラーが解説するのが受けて、現在でも山ちゃんが活躍しています。其れで、小鉄と山ちゃんの間に新日の解説を担当していたのがマサ斎藤です。レスラーは当然乍らプロレスの裏事情を知っていますので、如何に其れを隠し乍らレスラーならではの視点から語るのが魅力なのです。でも、米国生活が長かったからなのかマサさんにはそんなお約束は通用しません。
グレート・ムタを武藤、パワー・ウォリアーを健介と呼ぶのなんて序の口で、正体不明のマスクマンの「中のひと」も平気で明かしていました。ま、ライガーとかサムライとか日本人はみんな中身を知ってますけど、海外のマスクマンまで普通にバラします。例えば辻がブラックタイガーを褒めると、平然と「エディ(ゲレロ)はプロレス一家だからね」なんぞと云うわけですよ。猪木の事を「アントン」と呼び、死闘を演じた巌流島に関して雑誌の対談で武藤に「アレは大変だったでしょ?」と訊かれたら「全然、大変じゃないよ。武藤、お前もプロレスラーなんだから分るだろ」と云い放ったりしました。まさに「当たって砕けろ!ゴーフォーブロック」です。
そんなお茶目なマサ斎藤ですらシャッポを脱ぐのが「東洋の巨人・ジャイアント馬場」です。愛弟子ジャンボ鶴田が余裕ぶっこいて「オーッ!」と試合中に手を挙げると、すかさず「ジャンボは、此処で客に問おている場合じゃないんですよ」と苦言を呈するガチ解説が御馴染みですが、あたくしが好きなのは「長州vsキラー・カーン」での解説です。全日に上がった長州軍団が仲間割れしての大将戦みたいなアングルで、其れは全日で長州と手が合うのが天龍しかいなかったから生まれたストーリーだったと思います。
試合は「裏切り者のカーンを長州が制裁する」って筋書きですので、何故かペイントして登場したカーンは反則の限りを尽くして長州を追い込まなくてはいけません。小沢さんは「いいひと」でアンドレの足を折って有名になったのも、アンドレが前夜に呑み過ぎて自爆骨折したのを咄嗟の判断でアルバトロスで折った様に見せ掛けてアンドレのプライドを守ったなんて話もあります。それで、長州が優勢になりかけたら、場外から上がったカーンは紐で長州の首を締めるわけですよ。アナウンサーが「場外で拾ったのか?汚い事をしますね〜!」と絶叫すると、馬場さんが冷静に「用意してたんでしょ。あんなもんが都合よくリング下に落ちているわけがないんですよ」と解説したのです。ガチだワァ。
真偽不明ですが、多団体ではニワトリの血を仕込んだ血袋で流血ギミックをしていた悪役レスラーを呼びつけて、馬場さんが「困るナァ、ウチではそんなインチキはヤメてくれよ。此れからは自分で額を切ってくれ」と云った話も好きです。長州とタッグで対戦し、馬場がサソリ固めを掛けられまいと踏ん張った時の実況アナの「馬場の顔が、いつもの顔じゃないっ!」ってのもナイスでした。だったら、いつもどんな顔で闘ってるのよさ。
(小島藺子)