出演作:『歌のおにいさん』全8話(テレビ朝日系)
放映日:2009年1月16日〜3月13日(毎週金曜日 23:15〜24:10)
平均視聴率 10.8%
ザテレビジョン「ドラマアカデミー賞」2009年1月〜3月期、助演女優賞受賞
映像作品:DVD「歌のおにいさん DVD BOX」(コロムビア ZMSH-4790)
2009年7月22日発売
「美月うらら」は、片瀬那奈が女優10周年にして遂に助演女優賞を初受賞した記念すべき役柄です。番組への出演が決まった段階では「脇役のひとりだな」と左程は期待していなかったものの、本放送前日の2009年1月15日に行われた制作発表で「いきなりだナァ」とばかりに「パピプペポン体操」をど真ん中で歌い踊る姿を目撃し「此れは凄い事になりそうだっ」と胸を躍らされました。
果たして、片瀬那奈は本人も「本当に好い役」と宣った通りに驚くべき怪演をやらかします。主人公「矢野健太(おーちゃん:大野智くん)」がうっかり間違って面接し合格してしまった子供向け番組「みんなでうたお!パピプペポン」の「歌のおねえさん」である「美月うらら」は、高松塚歌劇団キトラ組の娘役から転身したお嬢様です。言葉使いはお姫様口調で、歌う童謡も過剰なオペラ風で、浮世離れしたぶっ壊れたキャラクターでした。2010年現在に放映中の「テレビでスペイン語」での「姫様」の雛形とも云えます。初登場シーンから、自分の世界に入り込んだ珍妙な存在感を大いに示す演説を捲し立てます。どっからどーみても「変な人」なのです。正に捨て身の熱演でした。
其れでも、初回から第二話までは「みなうた」を仕切っている「氷室王子(戸次重幸さん)」に従順な「単なる常軌を逸した脇役(いや、もう其の時点で充分に変だから、、、)」かと思えたのですが、第三話で氷室王子がリストラされて主役に躍り出てしまいます。さあ、もうどうにもとまらない。毎回披露される童謡では、在ろう事か「全身タイツで被り物」とか「着ぐるみでお相撲をとる」とか、美人女優でクールビューティーなんてイメージを根底から覆す暴走をやらかします。更に、うらら姫は普段着でも摩訶不思議なスタイリングを披露しまくっております。余りにも無茶な役柄なのですが、片瀬那奈は拒むどころか嬉々として挑んでいます。基本的に、那奈ちゃんはこーゆー事が大好きなのよさ。だからこそ、僕たちは「那奈ちゃんゾッコン☆LOVE」になったのです。でもさ、此処までやるか?御本尊様。高いテンションを持続させる為に、不眠不休で役作りをしていたとも云われております。
「西豪寺エレナ様」で開眼した「爆裂怪優路線」を、当時「思いの外に受けている」と語りあえて長く封印していた片瀬那奈は、其の本領を遂に露にしたのです。此れが評価されないわけがありませんので、此処でも「助演女優賞を与えて然るべきだ!」と大絶賛しました。現実に那奈ちゃんが助演女優賞を受賞した時には、心底嬉しかったです。僕たちは那奈ちゃんの大ファンですから賞を取る事が全てではないけれど、矢張り受賞歴が遺るのは意味が在ります。世間一般的にも、確かに片瀬那奈の渾身の演技が評価されたとの証しになりました。改めて「那奈ちゃん、御目出度う!」と云いましょう。
僕はずっと「西豪寺エレナ様」こそが「女優・片瀬那奈」の最高傑作だと思っていました。そして、彼女が其の路線を安易になぞる事なく様々な役柄に挑戦する姿に感動しましたし、舞台での「小野未来」と「平山まどか」には心の底から熱狂しました。でも、目の前で「平山まどか」を演じる片瀬那奈を27回も繰り返し観て腰まで抜かしたのに、其れでも「エレナ様の衝撃を超えた」とは感じなかった。此の時に、自ら創った大きなハードルだったエレナ様を片瀬那奈は軽やかに超えました。だからこそ、僕は「美月うらら姫こそが史上最強キャラだ」と喧伝したのです。ところが「怪優・片瀬那奈に天辺など無い」との事実を、2010年の現在に「高瀬リコ」で思い知らされています。かつてアントニオ猪木は「過激なプロレスラー」と称されましたが、片瀬那奈は「過激な女優」と呼ばれて然るべきでしょう。うらら姫は、其の台詞回しや奇抜なファッションに目を奪われる特異なキャラクターですが、細やかな仕草も素晴らしく、明らかに「西豪寺エレナ様」をも凌駕しています。其れは、矢張り舞台を経験してからならではの成長の証しです。片瀬那奈は、本当に好い女優になりました。
此の作品は深夜枠で8話と通常の尺よりも短かいドラマでしたが、数字も毎回二桁で、片瀬クンの助演女優賞を始めとして主題歌もドラマ主題歌賞を受賞し、作品賞と主演男優賞部門でも二位にランクされ、大いに評価されました。個人的には「1999年度水着キャンギャル」同期の滝沢氏との満を持しての共演にも、胸を高鳴らせて頂きました。そして「歌い踊る片瀬那奈ちゃん」も、たっぷりと堪能出来ます。歌手でも在る片瀬那奈が、此れ程までにドラマで歌い踊る姿を披露したのは現時点では此の作品だけです。其の歌唱に関しては役柄に沿って本来の片瀬那奈の歌声とは大きく違っていますが、他のドラマでは観れない貴重なパフォーマンスが記録されております。ゆえに「美月うらら」part 2 と別項を設けて、コアな考察を試みます。
(小島藺子/姫川未亜)