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2010年05月13日

「怪優・片瀬那奈・進化論」
act 020「小早川妙子」

小早川伸木の恋 DVD-BOX


 出演作:『小早川伸木の恋』全9話(フジテレビ系)
 放映日:2006年1月12日〜3月23日(毎週木曜日 22:00〜22:54、初回15分拡大版)
     平均視聴率 11.5%

 映像作品:「小早川伸木の恋 DVD BOX」(ポニーキャニオン PCBC-60980)
       2006年6月21日発売


運命の2006年が始まりました。24才になった片瀬那奈が年頭に挑んだ「小早川妙子」は、研音の大先輩である主演の唐沢寿明さん演じる医者・伸木の妻でヒロインです。お台場ちゃんは、名作「白い巨塔」での財前役と同じ医者役乍ら其の性格は真逆とのギャップを狙ったのでしょうが、「白い巨塔」で財前のエゴで誤診され死んでしまう弁当屋を演じたキチホンさんこと田山涼成さん(何気に片瀬クンと数多く共演しています)が今度は伸木を罠に嵌める越智助教授役で出演する等のツッコミどころが目立ち、ナナムジカによる大仰な主題歌「くるりくるり」と共に「世紀の怪作」として記憶されるドラマとなりました。(ちなみにナナムジカは翌年に同じく奇妙奇天烈なドラマ「女帝」の主題歌も担当します。)其の奇怪な作品での片瀬クンは、ハッキリ云って「小早川妙子の変」と名付けても構わない程の変しい変しい怪演をやらかします。

容姿端麗な妻で愛娘みーちゃん(神の子:北村一葉ちゃん)の優しいママである妙子は、反面、幼少時代のトラウマに起因するヒステリックで情緒不安定な「狂ったダイヤモンド」でもありました。自分以外の女性が例え仕事上でも伸木と関わる度に過剰に嫉妬し、包丁を振り回して暴れたり部屋を滅茶苦茶にする程に錯乱したり勝手に自宅マンションの鍵を変えて伸木を閉め出し伸木の友人で弁護士の仁志(藤木直人さん)に「伸木と離婚したい」と相談したりします。但し原作漫画と同じ性格設定乍らも余りにも身勝手な原作版とは違い、片瀬版の妙子には愛らしさがありました。

家庭での安らぎを得られない伸木はうっかり盆栽教室で知り合った作田カナ(紺野まひるさん)と関係を持ち、其れに勘付いた妙子もうっかり大学生の潤クン(山口翔悟クン:アンテツは此の時「もうリューケンドーは見ない!」と断言しました)と一夜を共にします。伸木「妙子と寝たのか?」潤「(こっくりうなずく)」とか、妙子「カナさんと、寝たんれしょ?」伸木「ああ、寝たよ!」などと身も蓋もない応酬の果てに、物語は離婚裁判へと発展するのでした。ちなみに、リューケンドーを「いつか殴る手帳」にしっかりと記したアンテツに「キス・シーンやベッド・シーンまで演じた唐沢さんは、どーなのよさ?」と訊いたら「唐沢さんは別にいいんですよ、ショッカー戦闘員でライダーマンですからね」と仮面ライダーマニアらしい回答が得られました。

DVDではバッサリとカットされた初回冒頭での大立ち回りから始まり、全篇に渡っての妙子の発狂演技が凄まじく、世間に「片瀬那奈って、一体、、、」と大いにイメージを覆させる事となりました。まるでジョーズが出現するかの如くタイミング良く伸木が他の女と一緒の現場に妙子が現れる演出は、爆笑を誘います。当時、片瀬クンが桂由美せんせいの「ブライダル・ファッション・ショー」で晴れ姿を披露した際にも、客席の奥様方が「アラ、コノコ観た事あるわね」「妙子よ、ホラ、小早川の」「ああ、アノ基地外嫁ね、普通にしてればベッピンさんじゃない」などと語っておりました。

上様(谷原章介さん)などの共演陣もモジャ公を除けば豪華で、キッちゃん(吉瀬美智子さん)が看護婦役でチラリと出てたりもしますが、またしても小川直也さんがプロレスラー役でゲスト出演しているのが注目に値します。「新宿暴走救急隊」での不甲斐なさに奮起したのか、小川は2005年末の吉田戦で本当に怪我をしてまで怪我人役に臨みました。ガチでリアルな姿勢は天晴れですが、役作りってそーゆーもんじゃないんじゃまいか?ハッスル!ハッスル!(死語)

然し乍ら、此の作品の眞の主役は「神の子みーちゃん」です。愛らしい風貌に似合わないドスの効いた単調すぎる台詞回しのギャップが生む破壊力はメガトン級で、怪演する片瀬クンをも食いまくっております。黙っていれば天使の様に可愛いのに、話した途端に物語を根底から覆すのですよ。ストーリー展開上でも、結局はみーちゃんが最後まで鍵を握っておりました。近年、大人も顔負けな上手い演技をしやがる子役が多い中で、こんなにも子供な姿を晒したみーちゃんは素晴らしいですよっ。片瀬クンの初めての御子を演じるに相応しい「史上最強の子役」です。

原作では「伸木はカナと再婚し、妙子は在ろう事か仁志を誘惑しできちゃった再婚し、更に成長したみーちゃんは潤クンと偶然に再会して惹かれ合い親子丼へ、、、」とトンデモすぎる結末を迎えますが(ま、単に原作者フーミンがポール・サイモン好きゆえに映画「卒業」みたいにしたかっただけなのだろうけどさ、、、そーいえばナナムジカの「くるりくるり」も「コンドルが飛んでいく」にアレンジがそっくりじゃん、、、)流石にドラマは其処まで無茶な展開にはなりません。そもそも仁志は原作では冴えない風貌の中年男で、藤木さんの様な綺麗な人が演じる役柄ではありません。ドラマでは最終回で離婚した妙子の引っ越しを手伝わされた仁志に、妙子が「あたし、仁志さんみたいな人となら上手くいったのかナァ」と唐突に告白じみた事を云いますが、仁志は「勘弁してよ、、、」と切り返すのでした。カナもあっさりと身を引き、伸木は独り身になります。可愛いみーちゃんがリューケンドーの魔の手に堕ちる心配もなさそうです。離婚してから逆に関係が修復している様に思える伸木と妙子が屋外で食事する場面でドラマは終りますが、其の最終場面のロケが天候不順で最終回直前まで延期されたなんてウラ話もありました。

予告の段階ではBGMにロネッツの「BE MY BABY」が流れていてワクワクしたのですが、本編では偏屈なフィル・スペクターからの使用許可が降りなかったのか無かった事になりました。挿入歌としてジェイムス・ブライトの「YOU'RE BEAUTIFUL」が使われ、特に妙子が苦悩する場面で頻繁に流れたので「小早川妙子のテーマ」として記憶される事となります。

私生活までもが妙子モードに染まる程に、片瀬那奈は此の役柄に賭けました。大いなる息吹が感じられる怪演に、あたくしも珍しく「妙子がんばれ!」とガチで全面支援を繰り返したものです。確かに、片瀬那奈は新たなるステージに上がったと思えました。箍を外した片瀬クンの暴走が始まったのです。


(小島藺子)


posted by 栗 at 02:07| ERENA | 更新情報をチェックする