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2010年05月04日

「怪優・片瀬那奈・進化論」
act 003「柏木礼奈」

天国のKiss〈1〉 (角川ティーンズルビー文庫) 天国のKiss〈2〉 (角川ティーンズルビー文庫)


 出演作:『天国のKiss』全10話(テレビ朝日系)
 放映日:1999年7月12日〜9月13日(毎週月曜日 20:00〜20:54)平均視聴率7.8%

 映像作品:ヴィデオ「天国のKiss」1〜5
      (テレビ朝日 PCVE-31020〜31024)1999年11月17日、12月1日発売


女優デビューから三作目で、いよいよ片瀬那奈ちゃんは連続ドラマに進出しました。役どころは、主人公(明日美:奥菜恵サン)と恋人(櫂:藤原竜也クン)を巡って敵対する「桂木礼奈」です。「16才の現役高校生で人気モデル」と云う設定は、当時の片瀬那奈ちゃんとリンクしますが、其の内面は明らかに違う「典型的な敵役」でした。最初期の役柄では、此の「桂木礼奈」と次作「氷の世界」での「迫田七海」が甲乙付け難く好きです。でも、どちらかを選べと云われたなら「桂木礼奈」と答えます。其の理由は、連ドラ初出演で既に片瀬那奈ちゃんは其の後の「怪優路線」の大いなる発芽を魅せているからです。

片瀬那奈ちゃんが演じる「敵役」は、代表作となった「西豪寺エレナ様(2006年)」や「美月うらら姫(2009年)」そして現在(2010年)爆走中の「高瀬リコ様」などに顕著な様に「憎み切れない愛らしさ」を備えて居ます。そして、何ゆえ「憎めない」のかと云えば、ズバリ云って片瀬那奈ちゃんが演じる「敵役」は「変な人」だからなのです。いや、失敬、云い直します。

片瀬那奈ちゃんが演じる「敵役」は「物凄く変な人」なのだ。

其の所謂ひとつの「怪優・片瀬那奈」が開眼したのは、一般的には2006年の「西豪寺エレナ様」と云われています。其の説は、確かに間違ってはいません。然し乍ら、其の前に演じた「小早川妙子」と「山田バーバラ」の存在も重要です。何れにせよ、2006年が怪優開眼の時で在ったのは歴史的事実でしょう。されど「ローマは壱日にして成らず」なのです。元々、片瀬那奈ちゃんには「怪優」へ進むべき資質が確かに在りました。其れを証明するのが此の1999年の「桂木礼奈」です。

此の役柄には、現在に至るまでの「怪優・片瀬那奈」の本質が面白い様に詰め込まれています。櫂を奪われそうだと直感した礼奈は、あらゆる手段で明日美を虐めます。手下を使って陰湿にイビリ捲り、手のひらを返して涙の謝罪をし味方に付いたと見せかけて罠に嵌め、堂々と宣戦布告し自ら櫂にキスをして高らかに勝利宣言します。其れがゴーストである明日美の力を最大限に覚醒させる事になってしまい、櫂の気持ちもドンドンと明日美へ傾いてゆくのですが、、、。其の過程で、礼奈は徹底的に「イヤな女」なはずなのですが、ひたすらに恋人を振り向かせようとする姿はいじらしく可愛いのです。そもそも、いくら幼なじみだったからといって既に恋人関係だった礼奈と櫂の前に突然現れた明日美の存在こそがエイリアンなのです。礼奈の立場なら、彼を繋ぎ止めたいと考えるのは当然ですし、其の行動が過剰になればなる程に物語は盛り上がります。そして、片瀬那奈ちゃんは見事に悪役に徹しました。然して、其の余りにも健気で一本気な敵役振りが観る者の心を揺さぶったのです。

終盤で、礼奈は最終手段に出ます。アノ手コノ手で明日美を追い詰めたものの、意に反して櫂の気持ちは益々離れてゆく。切羽詰まった礼奈が取った最終手段は「いきなりだナァ!の土下座」でした。しかも、朝っぱらから屋外の橋の上で「あたしに櫂を頂戴!お願いします!!」とやらかすのです。挙げ句に、形振り構わずに真摯に対峙した礼奈に圧倒された明日美がビビりやがって逃げ出す後を追い、在ろう事か身代わりに車に轢かれて死んでしまうのでした。

「片瀬那奈17才、無惨にも血だるまで絶命ですよっ」

其の余りにも衝撃的なクライマックスでの熱演は、何度観ても爆笑せずにはおれません。同時に、まるで怪物を見てしまったが如く大仰に「イヤぁーっ!」と叫ぶしかない明日美の無力さに憤りを感じますし、礼奈が何でこんな目に逢わなきゃいけないのだ?一体此処まで酷い結末を迎える程に礼奈は悪い事をして来たのか?と思わざるえないのです。

明日美と櫂の呼び掛けで礼奈は蘇り改心してしまうのですが、どー考えても明日美の方が自分勝手なトラブルメーカーで全く感情移入出来ません。保てる力を出し切って壮絶に散った桂木礼奈こそが心に響くのです。土下座までしたのに血みどろで死んじゃうんですから、天晴れとしか云えません。「敗北の美学」をマザマザと見せつけた其の姿が「在りし日のアントニオ猪木」や「後の小川戦での橋本真也」をも想起させるのは、長年「ワールドプロレスリング」を中継する「テレ朝イズム」ゆえでありましょうかっ。

当時の片瀬那奈ちゃんは、水着キャンギャルで在り、「ヤンサン」で活躍する紛れも無いグラビア・アイドルでした。グリコのトマトプリッツのCMにも出ていました。そんなアイドルが、正に体当たり演技を何の迷いもなくやっちまったのですから注目せずにはおれません。最終回で魅せた改心後の屈託の無い笑顔には「うん、あそこまで全身全霊を賭けて闘ったのだから、敗れても悔い無し!だな。よくやった、礼奈ちゃん」と拍手を送りました。クライマックスでの「土下座〜流血の壮絶死」と云う展開は、其の破天荒な脚本の面白さもありますが、何よりも驚嘆すべきなのは其れを演じ切った「若干17才の片瀬那奈」です。当時のインタビューで「納得出来たなら、ペンキでも被るし、何でも演じます」と云い切ったのは、本気でした。

此の作品は共演者にも後の「カタセカイ」を構成する布陣が多く、大いに楽しめます。恋人役だった竜也クンとは「デスノート(2006年)」で再共演しますし、明日美の両親を演じるのが高田純次サマと戸田恵子サンってのも見どころなのですが、櫂と共にバスケ部に所属する連中の中に坊主頭の輩が居るのが気に掛かります。後に「残り夏(2005年)」で再共演する其の人は「荒川良々クン」です。当時の彼は25才くらいだったと思いますが、10代の若手に混じって普通に高校生を演じております。全く今と風貌が変わりません。其の年齢不詳振りは、当時から不変です。

さて、「土下座すりゃ偉いのか?」って声が聞こえます。そんなわけないじゃん。後に「西豪寺エレナ様」が土下座をした時に、あたくしは「掟破りの逆土下座」と絶賛しました。其れは、ミクロちゃんが初回で「決死のダイビング土下座」をやらかした事への返答でも在ったのですが、礼奈とミクロちゃんを比較しちゃったからなのです。ミクロちゃんの土下座は、心を打ってはくれませんでした。其れはダイビングがスタントだったからでは在りません。単純に「可愛いミクロちゃんが土下座なんかやらされて可哀想だナァ」としか思えなかったのです。決してミクロちゃんの責任では在りません。普通の10代の女の子ならアレで充分だし、寧ろミクロちゃんは果敢に挑んでいたと思います。其れでも満足出来なかったのは「10代の片瀬那奈」を観てしまっていたからでしょう。片瀬那奈は、其の登場から既に振り切れていました。「桂木礼奈の土下座」は、今後も永遠に超えられないと思います。其れはまっすぐに「西豪寺エレナ様の逆土下座」へと繋がっていました。

「土下座して、其の後に血だらけで死ぬって展開なんだけど、宜しく」とスタッフに云われた時、間違いなく「17才の片瀬那奈は、心の底から歓喜した」とあたくしは思います。そうでなければ、こんなにも心に残る土下座なんか出来っこありません。


(小島藺子/姫川未亜)



posted by 栗 at 00:07| ERENA | 更新情報をチェックする