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2009年11月01日

「夢みる歌謡曲」第那奈章: 片瀬那奈がきこえる
#060:「FANTASY LIVE in 恵比寿ザ・ガーデンルーム」

Necessary/EVERY***(初回限定盤)(CCCD)(DVD付)


 Lyrics:NANA KATASE
 Music:Seikou Nagaoka
 Arrangement:Seikou Nagaoka

 品番:AVCD-30532/B

 実演日:2003年8月19日

 発売日:2003年10月16日

 テレビ東京系アニメ「ヒカルの碁」オープニング・テーマ
 (第六十一局〜第七十五局=最終回)


「Necessary / EVERY***」の初回盤付属DVDには、片瀬那奈の実演映像が二曲収録されています。残念乍ら両曲共に途中でフェイドアウトしてしまうのですが、後の『RELOADED 〜Perfect Visuals〜』には収録されなかった映像です。特に伝説の「登場時に片方のシューズを飛ばした2003年8月1日@六本木velfarre」の映像を枕に始まる2003年8月19日@恵比寿ガーデンルーム「SHiNY girls Summer Party」から収録された「FANTASY」の実演映像は、此のDVDでしか観れません。

御覧下さい、此れが噂の「歌のおねえさん風ピンクのつなぎ姿」の片瀬那奈です。天下無敵の六本木velfarreを始めとするクラブのステージにも、片瀬はこんな格好で降臨したのです。無論、最初はレザー姿で、「Babe」ではカラフルなミニワンピ、「Shine」ではドレスとお色直しもするのですが、最も観客を巻き込む終盤の「FANTASY」や「The Wings」のパートでは此のスタイリングが定番でした。

野外実演などで「小さなおともだち」も多く参加する場合には大変好評を博したファッションですが、クラブ・イベントでは明らかに場違いです。其れでも、片瀬は其のギャップを狙っていました。「クラブで歌のおねえさんやったら面白いよね?此れだと動き易いしさ、がっはっはっは」とばかりに、大人も子供に回帰させ「那奈おねえさんといっしょ」に踊り歌う異空間を創り出しました。

片瀬那奈に限らず、芸術は「過去の遺産ありき」で成り立ちます。総合格闘技の元となった「UWF」は「猪木プロレス」が無くては永遠に始まらないし、其の猪木も師である力道山やカール・ゴッチ、ルー・テーズなどの先達から学んだのです。力道山も大相撲が無ければ存在しません。彼と「昭和の巌流島決戦」で敗退した木村が、桜庭の四半世紀も前に「グレーシー超え」を成し遂げた柔道家で在る事実をも含め、人間風車:ビル・ロビンソンが語る通りに古代パンクラチオン時代で「完成」されたレスリングをアレンジして其の後が在ります。新日、国際、全日の全てに参戦し、猪木、馬場、鶴田などと実際に対戦し、現在では「U系」の道場「蛇の穴」でコーチを務める彼の経験に基づいた考察は説得力が在ります。其の発言が、ジャンルは違えども同じく経験と研究を繰り返し大衆音楽を考察する「師・大瀧詠一」の其れと重なったのは、当然です。対象が異なっても同じ結論に達する。其れこそが「真理」と呼ばれるのです。

「片瀬がやったのは洋楽ハウスの模倣だ」との陳腐なその場限りの狭い既視感に基づく独断からの結論へ至る輩は、無知です。片瀬は物真似をしたのでは在りません。THE BEATLES が先達のロケンロールやガールズ・グループなどを混合させて新たな音楽を創った様に、THE BEACH BOYS がチャック・ベリーのロケンロールにフォー・フレッシュメンのジャズ・コーラスを乗せて新たな世界を魅せた様に、発明には元ネタは不可欠なのです。全ては模倣から始まるのです。其れは、僕たちが生きる事にも云えます。僕たちは「無」でした。僕たちの叡智とは、全て先達の模倣から始まったのです。自分だけで言葉を話せる様になったわけでは在りません。何もかも、誰かに教わったのです。そんな単純な事を、僕たちは忘れてゆく。其れが大人になる事だと云うのなら、あたくしは生涯そんなモンにはならないと誓おう。

全ての邪気から解放され、無心に還って片瀬と共に手を振る観客(当然乍らあたくしも含む)の無垢な笑顔を観て下さい。此れが「幸福」を実感した者の姿です。此の時、僕たちは確かに生きていると実感し、幸せでした。何故なら、目の前に片瀬那奈が居て歌い踊り、一緒に手を振って共鳴したからです。確かに僕たちは那奈ちゃんと同じ時を生きていると、言葉を超えて感受しました。例え映像に遺らなかったとしても、其の記憶は消えません。されど、こうして実演映像が不完全なカタチとは云え遺された事には大いに意義が在ります。

時は人々の記憶を残酷にも消してゆきます。人は過去に生きるのでは無く、常に未来を求めます。其の結末が「死」と知りつつも、僕たちは「明日」を望むのです。「FANTASY」は、未来讃歌です。僕たちが何故生きるのかを、此れからどうすべきなのかを、片瀬は煽動しました。実際に体験した実演に勝る映像作品なんて存在しませんが、其の記録は僕たちを忘却から救ってはくれます。あの日、僕たちが那奈ちゃんと一緒に誓った未来を思い出させる此の映像を観る時、僕たちは初心に還るのです。


(小島藺子/姫川未亜)



posted by 栗 at 08:24| YUMEKAYO | 更新情報をチェックする