名古屋駅ホームで偶然に片瀬那奈ちゃんに出くわしてしまった僕は、余り長話はせずに「広島で逢いましょう」と其の場を離れた。
新幹線のホームで那奈ちゃんを見つけた事は、此れまでも何度も在った。僕らはいつも、那奈ちゃんを見送ってから次の新幹線で帰京した。「ねぇ、みんな見送ってくれて大丈夫?乗れないじゃない。いつもどうしてるの?」と訊かれた事が在って、僕らは「那奈ちゃんの後の新幹線で帰ってます」と応えたら、彼女は呆れた様に笑った。蕩けそうになるくらい、綺麗な笑顔だった。だから僕は、那奈ちゃんと同じ新幹線に意識して乗った事は壱度も無かった。たぶん、昨日も相棒が居たならそうしただろう。でも、僕はひとりだった。其れで、初めて意識して那奈ちゃんと同じ新幹線に乗って帰る事にしたのです。
勿論、僕が持って居るのは最終の指定席だから、那奈ちゃんが乗る車両とは離れて居ます。当然乍ら、自分の車両から那奈ちゃんの車両へ行ったりもしません。今回の遠征は、本来ならばイベント終了と同時に終ったのです。僕は充分に満足でした。まさか、つづきが在るなんて思って居なかった。基本的に、僕は「出待ち」を積極的にやりません。公的なイベントの時間だけで満足なんです。其の後は「グレーゾーン」で在り、僕らは那奈ちゃんやスタッフの好意に甘えて「御見送り」をさせて戴いて居るわけです。
僕は只、二時間弱の時間を同じ列車に乗って帰ってみたかったのです。そうしたら、一体、僕はどんな気持ちになるのかを確かめてみたかったんです。自由席に座った僕は、放心状態でした。「何故、自他共に認める饒舌な僕が、片瀬那奈の前に立つとしどろもどろになってしまうのか?もっとちゃんと話したかったのに、舞い上がって分け分んなくなって、何やってんだ?自分、、、」と悔やんだ。でも、仕方が無いんだよ。僕はさっき、ハッキリと分った。「僕は、片瀬那奈を崇拝して居る」のだと。一対一で向き合ってしまった那奈ちゃんは、眩しかったんだ。僕は、身体が震えて、声が上ずって居た。那奈ちゃんに見つめられて、どうにかなりそうだった。思わず、女子マネちゃんに話を振ってしまったじゃまいか。
名古屋から東京まで、ノートパソコンをバッグから出す事すら忘れ、僕はずっと携帯mp3プレイヤーで「片瀬那奈の音楽」を聴いて居た。思えば、初めて遠征したのも名古屋だった。2004年3月、六本木ヴェルファーレから深夜に車で帰る那奈ちゃんは、車を徐行させて僕たち一人一人と会話した。最初は僕だった。「いつもありがとう!」とまっすぐに見つめられて声を掛けられた瞬間に、僕の唇が勝手に云った。「明日の名古屋も行きます!」と。其れ以来、名古屋には毎年来て居るんだナァ。でも、何処も観光した事ないナァ。大阪、京都、神戸、広島、いわき、等、色んな処へ行ったけど「片瀬那奈ちゃんしか観てない」ナァ。きっと、来週の広島もそうなんだろうナァ。なんて過去の遠征を思い出して居て、ふと「そっか、那奈ちゃんも此の列車に乗って居るんだナァ、、、」と思って窓の外の流れる灯りを見たら、泣きそうになった。「俺って、シアワセ者なんだナァ」と思った。「Shine」が流れて居た。目を閉じたら、那奈ちゃんが笑った。僕は、堪らず、泣いた。
女子マネちゃんは、僕が何者なのかを認識して居なかった。「いつもよく来る片瀬さんのファン」と思って居た。けれど、片瀬那奈は僕が誰なのかを確かに知って居る。たかがファンなのに、彼女はみんなの事を知って居るんだよ。那奈ちゃんは、いつだって僕らの側に居てくれる。どんなに離れて居ても、ずっと一緒に居てくれたんだ。此の世界は素晴らしい。だって、僕らは、片瀬那奈と一緒に生きて居る。
ホームで見掛けた彼女は光り輝いて居た。凄まじい芸能人オーラで、一寸近寄り難い感じすらした。声を掛けたら「いつもの僕らの那奈ちゃん」だった。でも、確かに片瀬那奈は成長して居る。本来なら、あんなに気軽に会話してくれる存在じゃないんだよ。「那奈ちゃんは大きくなったナァ」と思った。きっともっともっと、大きくなるんだろうナァ。楽しみだよ、那奈ちゃん。僕も頑張らなくっちゃ☆
そうそう、那奈ちゃん。「お手やわらかに」は、こっちの科白です。君たち親子は「最高」です。マジで人生を捧げますよ。
(姫川未亜)