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2009年09月08日

「夢みる歌謡曲」第那奈章: 片瀬那奈がきこえる
#021:「for you」

Babe(初回) (CCCD) Babe(通常)  (CCCD)


 Lyrics:NANA KATASE
 Music:Paul Taylor
 Arrangement:k-muto

 Advisory Produder:Cobra Endo(Mugen)
 Mixed by Dave Foad

 品番:AVCD-30445/B、AVCD-30424

 発売日:2003年2月19日


「for you」は、名曲です。那奈ちゃん自身の作詞で、冒頭の「I walk with you and I want to go on」からして「貴方についてゆくあたし」と云う彼女の「理想の恋愛観」を恋人へ向けて歌われた内容と思われるのですが、其処は「天下無敵の片瀬那奈ちゃん」ですので可愛らしい侭では済みません。「あなたのハートを握りしめてもいいかな?」なんぞと物騒な事を云い出します。

「おいおい、那奈ちゃん、恋人が死んじゃうよ。」

其の歌詞は「ファンへ向けたとも考えられる!」と、僕たちは思いました。ファンとは、そーゆー莫迦です。「那奈ちゃんに心臓を潰されたら、本望じゃん!」「じゃ、俺が最初ね」「何云ってんだよ、ジャンケンで決めようぜ」「うんにゃ、あたくしは最後で好いわよ。おまいら全員の至福の死に様を見届けてから逝くわよ」なんぞと戯けた世迷い言に興じつつ、「でもさ、那奈ちゃんって、やっぱ怖いナァ、、、」とも思ったのでした。此れが片瀬那奈の考える「愛」で、其れを「僕たちに捧げた」のだとしたら、僕たちは最早「生半可な気持ちでは、彼女と関われない!」と「お莫迦なファン」も知ったのです。いや、マジで。

さてさて、所謂ひとつの「テレパシー・ヴォイス」が最も効果的に(特に那奈ヲタにとって)届くのが「for you」でしょう。ヘッドフォンで聴くと、主旋律の歌よりも同時進行の「囁き声」でのラップが強烈に耳に残ります。其れで「アナタノハートヲ、ニギリシメテモイイカナ?ハナサナイ、ソウ、ズット」と囁かれる頃には、完全に撃沈しているはずです。「もう、どーにでもしてくんしぇい、片瀬様、、、」と痴呆の様に「片瀬の虜」と化してしまった「オヤジども」の惚け顔が目に浮かびます。いや、マジで「片瀬那奈のウイスパー・ヴォイス」は魔性ですよっ。基本的に、片瀬音源の全ては「囁き声」が「歌」と一緒にミックスされています。普通に聴いていると「魔性の囁き」は「隠し味」なのだけど、実は其れがジワジワと効いて来るわけよ。

「片瀬那奈の曲は、ヤバイ!」のは、一聴すると「普通の歌」にも聴こえてしまうからです。「ハウス」とか「エレクトロ・ポップ」とかに収まらずに、「大衆音楽」そして「歌謡曲」としても「うっかり」と成立しています。其れは、当然乍ら片瀬も含む制作サイドの意図する処でした。1980年代の「テクノ歌謡」の様にはしたくなかったのでしょう。片瀬自身の音楽嗜好から考えれば、彼女は大いに妥協したと思います。もっと一般的には「分けが分かんない音楽」でも、特にシングルB面やアルバムではやれたはずです。でも、片瀬は頑なに「大衆音楽」で踏みとどまった。万人が楽しめるカタチで、普通に「新たな音」を奏でました。そんな片瀬が「自分の声を電子的に加工する」方法を選択しなかったのは「必然」でした。彼女は「生の声を重ねた」のです。其れでしか「テレパシー・ヴォイス」は成立しないと確信していたのでしょう。

「for you」の曲やアレンジは、2003年当時ならジャネット・ジャクソン等が歌っていた様なシンプルな「R&B バラッド」です。作曲者は欧米人名儀ですが、おそらく「日本人作家の偽名」では無いか?とも推測されます。但し、楽曲は「完全なる洋楽」の模倣です。其れは「ヒッパレ時代」からの伝統でも在りました。歌謡曲の伝統に法るかの如く、此の楽曲での片瀬は英語を多用します。冒頭のラップ部分やサビはほとんどが英語詞で在り「片瀬の強い洋楽志向」が伺えますが、問題は日本語も混じっている部分なのです。歌い出しから「Tell Me おしえて〜」と「天才バカボンのパパ状態(危険がアブナイ)」で凄過ぎなのですが、此れはかつて「ロカビリー歌手:ほり☆まさゆき」がビートルズを日本語でカヴァーした怪作「I FEEL FINE」の訳詞での冒頭で「分るだろ?YOU KNOW ?」と云い放って以来の伝統でした。

片瀬那奈の音楽は「エレクトリック・ポップ」で在り乍ら、一貫して「エモーショナル」です。其の歌には、血が通い鼓動が響き息づかいが確かに感じられます。生身の人間らしさが伝わり、其れは在る意味「肉感的」で「エロティシズム」も放ち、柔らかな安らぎが存在します。「生きている!」って感じさせられる「ソウルフル」な音楽を、片瀬那奈は創りました。其れ故に、「片瀬那奈の曲は、ヤバイ!」のです。其の「生命の息吹」を知ってしまったなら、未来永劫「離さない そう ずっと」なのよさ。

「那奈ちゃんって、やっぱ、おっかねぇっす。」


(姫川未亜/小島藺子)



posted by 栗 at 00:07| YUMEKAYO | 更新情報をチェックする