w & m:LENNON / McCARTNEY
P:ジョージ・マーティン
E:ノーマン・スミス
2E:ケン・スコット(10/6、12、27)、マイク・ストーン(10/6)、ジェフ・エマリック(10/18)
録音:10月6日(take 13)、10月18日(take 15)
MONO MIX:1964年10月12日(#1)、10月27日(#2 & #3)
STEREO MIX:1964年10月27日(#1 & #2)
1964年12月4日 アルバム発売(「BEATLES FOR SALE」 B-1)
パーロフォン PMC 1240(モノ)、PCS 3062(ステレオ)
アナログ盤ではB面の1曲目でした。いえ、今も其れを聴いているのだけど、「ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」とフェイドアウトして終った「BEATLES FOR SALE」をひっくり返して針を落とせば、なな、なんと、此の素晴らしいレノマカ楽曲が「フェイドイン」して始まります。カッコいい!!こんなの聴いた事なかった。イントロがフェイドインして来るって物凄い発明です。
データでお分かりの様に、此の曲は現在聴けるカタチの前にモノラルでのミックスまで終了し完成しました。其れは、当初は此の楽曲こそがシングル候補だったからでしょう。当時、彼等の主演第二作映画として「EIGHT ARMS TO HOLD YOU」なる仮題が在りました。其の主題歌を想定してポールが骨組みを書き、録音中にジョンの比重が大きくなって、結果的には「レノマカの合作」へと発展したのです。然し乍ら、映画は結局「HELP !」として公開されます。しかも、ジョン主導の野心作「I FEEL FINE」が出来てしまった為に、此れ程にもポップな楽曲が本国英国では「アルバム用」に回されたのです。其れで、完成品に手を加える追加録音されます。此処までの流れを追えば、当然追加された録音でイントロが最録音されたと思われるでしょう。ところがだ、確かに彼等はイントロとアウトロを最録音しますが、結局、編集で繋がれたのはアウトロ部分のみでした。つまり、シングルを想定した段階から「イントロがフェイドインする事は決まっていた」のです!其の発想は、凄過ぎます。
米国では当然の如くシングル化され、首位を獲得します。日本でも、しっかりとシングル盤が出ております。おそらく「本国では壱曲たりともシングル・カットされなかった」アルバムにも関わらず「14曲中の10曲がシングル発売された」なんて国は、此の日本だけでしょう。米国だって、其処までやんなかったよ。其れ程までに日本人は「ビートルズ '65」が好きなんです。そうです、此の作品はタイムラグが在る日本では「ビートルズ '65」として、1965年に発売されたのでした。コンパクト盤も乱発され、リアルタイムの日本では何が何だか分らなかったでしょう。でも、記憶には残った。僕たち赤盤青盤世代の前に、リアルタイムで1964年に彼等に出逢ってしまった数少ないお兄さんやお姉さん(実際に其の世代の方々は皆さん「ビートルズを聴いていたのは、クラスで一人か二人だった」とおっしゃいます)が、「ビートルズ '65」が一番好きだって云っちゃうんですよ。
オリジナル楽曲は暗い傾向に在るアルバムの中で、此の「一週間に十日来い♪トコトン、トコトン♪」は、余りにも明るい。されど其れがシングル用だった経緯を知り、そして実際にシングルになったのが「I FEEL FINE / SHE'S A WOMAN」と云う表面上は「アイドル集団による恋愛賛歌」だったと云う事実から、1964年末の彼等の「戦略」が伺えます。ビートルズの楽曲を聴く時、僕たちは其の絶望感や悲壮感に驚く瞬間が在ります。彼等が歌った楽曲で底抜けな「ハッピー・ソング」を見つける方が困難です。彼等は、常に「此の世界の無常」を歌っていました。だからこそ、底抜けに明るいはずなのに「凡庸にはならなかった」此の楽曲は「永遠の美」になりました。そして、其れを実現したのは「レノマカ」の魔法でしょう。
繰り返しますが、此の曲は明らかにポールが主導で書かれた作品でした。なのに、テイクを重ねて、結局はジョンが主導権を握りリードを取りました。天然ポールの屈託の無い明るい旋律を、毒舌家レノンが歌った時に、何とも云い難い苦みが加わったのです。「レノマカ、此処に在り!」を示す傑作中の傑作です。此れをシングル化しなかったって「志」も、素晴らしい!余りにも、真摯だ。此れこそが「正義」です。彼等は、体制に反抗したのでは無い。新たな世界を築こうとしただけだ。其れを旧体制が畏れ弾圧したから、彼等は反逆児と呼ばれたのです。こんなにも美しい音楽を聴いただけで、不良になるって云われたのです。ビートルズが音楽の教科書に載る世界では「そんな馬鹿げた噺があるもんか?」と思うでしょうけど、本当に起こった事なのです。されど、音楽は力強く残りました。さあ、「BEATLES FOR SALE」B面の世界を、御一緒に楽しみましょう。
(小島藺子/姫川未亜)