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2009年05月08日

FAB4-048:AND I LOVE HER

日本の人 AndILoveHer.jpg ailh-iif.gif


 w & m:LENNON / McCARTNEY

 P:ジョージ・マーティン
 E:ノーマン・スミス
 2E:リチャード・ランガム(2/25〜27)、A.B.リンカーン(3/3)、ジェフ・エマリック(6/22)
 録音:1964年2月25日〜27日(完成品は27日版)
 MONO MIX:1964年3月3日
 STEREO MIX:1964年6月22日

 1964年7月10日 アルバム発売(「A HARD DAY'S NIGHT」 A-5)
 パーロフォン PMC 1230(モノ)、PCS 3058(ステレオ)


♪あいしてるわ♪(冬美ちゃん声で)

「キヨシちゃん」こと「忌野清志郎さん」は、心底、此の楽曲が好きなのでしょう。僕が知る限り、公的なカタチで三回もカヴァーしています。最初は「ロックが生まれた日」だったかナ。野音で、「SMI」として、坂本冬美をヴォーカルに抜擢して「日本語の替え歌」で披露したのでした。其の時に、キヨシちゃんはウクレレを弾いていました。其れで、僕は「ウクレレ弾き」になったのです。キヨシちゃんとおんなじお店で、ジョンが最期に愛用していたオベーション・アコギのウクレレ版を買いました。

其の替え歌は、細野サンをも巻き込んだ「HIS」で正式録音されます。でも、キヨシちゃんは原曲のまんまの英語詞でもカヴァーしているのですよ。其れは、TBSのドラマだったと思います。彼は、弟である主人公の「真面目できれいなおねえさん」が間違って好きになっちゃった「売れないミュージシャン役」でした。でも、二人の愛は本物だったので、お父さんに挨拶にゆくわけです。ぎこちない場面がつづき、破談か?って展開で、キヨシちゃん演じる恋人が除け者にされた彼女の家の片隅で、一人ぽっちで此の曲をギターで弾き語るのでした。其れを聴いた弟や親父が感動して、目出度く結婚するってエピソードだったと記憶しております。主役の弟役は、緒方直人クンだったかナァ。ドラマのタイトルすら思い出せませんが、キヨシちゃんが歌った場面だけは鮮明に覚えています。主題歌もキヨシちゃんの名曲のひとつ「サラリーマン」で、劇中で「きれいなおねえさん」と結婚後にも「よーこそ」を演奏したりしたと記憶しております。てか、おそらく、キヨシちゃんが観たくて毎週観ていたのでしょう。相変わらず、枕が長くて、どーもすいません。

アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」での、唯一の「本当のレノン・マッカートニー作品」が、此の至上の名曲「AND I LOVE HER」です。メインの部分はポールが書き、中間部をジョンが書く(もしくは、其の逆パターンも在り)と云う、其の後の合作の名作(例えば「MICHELLE」「WE CAN WORK IT OUT(恋を抱きしめよう)」「A DAY IN THE LIFE」など)の、最初期の試みが「ズバリ!当たった」わけです。其れまでの彼らの楽曲とは明らかに違う「新たなるスタンダード・ナムバー」の誕生でした。レコーディング・データを御覧になって戴ければ分る通り、多忙だった彼らは此の楽曲に、なな、なんと「三日間、21テイク」も費やしました。「アンソロジー 1」で聴ける初期テイクでは、其れまでと同じ「エレキ・バンド・スタイル」で演奏しています。リンゴの太鼓が煩くって、名曲が台無しですよ。其れが、完成型では「アコースティックなバラード」へと変貌します。ジョンもジョージも、アコギに持ち替えたのです。其の編成は、映画「A HARD DAY'S NIGHT」にも、しっかりと記録されました。

「アコギの名手:いたいけジョージ」がクラシカルなソロを奏でる横で、蟹股で「ジャンジャカジャンジャン!」と大仰にストロークし続ける「俺様:ジョン」、我関せず自分に酔ってフラットしまくりで歌う「ボクちゃん大好き:ポール」、そして、デカイ音で太鼓が叩けなくって不機嫌な「太鼓莫迦:リンゴ」、、、全くもってアンバランスな世界です。なのに、其れが美しいのです。「ミックス違い道」でも、大変お世話になった楽曲です。多くのミックス違いが存在すると云う事は、ビートルズが此の楽曲に其れだけ時間を掛けたと云う証明なのです。彼らは、大いに自覚して、此の楽曲を現在のカタチにしました。後の世の「アンプラグド」を作ったのです。彼らが此の楽曲で発明したのです。だからこそ、ポールは万感の想いを込めて「MTV」で此の曲を歌ったのだよ。先駆者の誇りを賭けて奏でた30年後の名演に、僕らは涙した。ベースを弾かず、亡きジョンの奏でたアコギのフレーズを高らかに鳴らしながら歌うポールに惚れ直したんだ。

其れにしても、此の曲でのポールも「音痴」杉ですね。

無茶苦茶、音を外しまくってます。でも、其れすらも魅力になる程、いや、寧ろ「ポールが辿々しく危うく歌う」からこそ、此の楽曲は「永遠のスタンダード」になったのでしょう。いや、あの、あたくし、「ポール大好きサン」ですよ。でも、完全に「フラットしてる」んだもん。「音痴」なんだもん。ポールとリンゴは、音痴だよ。いや、ホント。聴けば分るじゃん。そして、此の記事を書いてから、那奈ヶ月も経たずに、キヨシちゃんは逝ってしまった。キヨシちゃんは、公式盤だけでも此れ以外にも「イマジン」(日本語)、「HELP !」(日本語)、「DON'T LET ME DOWN」等、多くの「FAB4カヴァー」を披露してくれました。でも、僕にとってキヨシちゃんが演奏してくれた最高の「ビートルズ関連カヴァー」は此の曲です。此の曲を聴いたり、自分でウクレレで奏でる度に、僕はキヨシちゃんの事を考えるでしょう。今までも、此れからもずっと。キヨシちゃんの魂は、ずっと遺る。此の曲が愛おしいのは「キヨシちゃんの心そのもの」だからだと思います。キヨシちゃんは、此の曲みたいな人です。繊細で優しくって強い「本当の大人」です。愛しています。


(小島藺子/姫川未亜)


初出:「COPY CONTROL」2008-10-16

(REMIX by 小島藺子)



posted by 栗 at 00:07| FAB4 | 更新情報をチェックする