w & m:LENNON / McCARTNEY
P:ジョージ・マーティン
E:ノーマン・スミス
2E:リチャード・ランガム(3/1、10、6/4)、A.B.リンカーン(3/3)、ジェフ・エマリック(6/22)
録音:1964年3月1日
MONO MIX:1964年3月3日、4日、6月4日
STEREO MIX:1964年3月10日、6月22日
1964年6月19日 EP発売(「LONG TALL SALLY」A-2)、パーロフォン GEP 8913(モノ)
アルバム「A HARD DAY'S NIGHT」とEP「LONG TALL SALLY」のレコーディングは、完全に同時進行で行われました。具体的には、1964年1月29日から6月2日までの三ヶ月余の期間です。映画も当然、同時に撮影していて、サントラ盤のA面には映画で使われる新曲を収めB面には其れ以外の新曲を入れる事になりました。余った曲が四曲入りのEP盤「LONG TALL SALLY」になるわけです。EP盤「LONG TALL SALLY」には、カヴァーが三曲と此のジョン・レノン作のオリジナルが弾かれましたが、実は「YOU CAN'T DO THAT」、「I'LL CRY INSTEAD(僕が泣く)」と此の「I CALL YOUR NAME」の三曲も映画に使われる予定だったのです。ステレオ・ミックスが1964年3月10日に行われている事からも、間違いないでしょう。
「YOU CAN'T DO THAT」に関しては、実際に演奏シーンまで撮影され、其の場面には少年時代のフィル・コリンズが観客役のエキストラでバッチリ映っています。髪の毛もフサフサで、可愛い男の子なので俄に彼だとは気付かないかもしれません。(「MAKING OF A HARD DAY'S NIGHT(1994年制作)」で、禿げコリンズの自慢噺付きで観れます。アノ名言「最高だったよ!ビートルズにも逢えたし、弁当も出たし」の「弁当とビートルズが『等価』発言!」も飛び出す名作ドキュメンタリーですので、未見の片は是非とも御覧下さいナ☆)
三曲とも「みんなのアイドル」でも在った当時のビートルズにしては暗めで革新的なサウンドでした。そして、全部がジョンの曲です。此の曲が弾かれた理由は、タイトル曲である「A HARD DAY'S NIGHT」をギリギリになってジョンが書いて来たからでした。正に、此の頃のジョンは「神」でした。そして此の曲が、アルバムからまで弾かれてしまった理由は、此れが「セルフ・カヴァー曲」だったからなのかもしれません。そう、此の名曲は、何故か「ブライアン・エプスタイン」のお気に入りだった「BILLY J. KRAMER with THE DAKOTAS」によって、先に歌われてしまったのでした。ジョンから楽曲を最も提供されたのが彼らでした。ビリーって、歌が下手なのにナァ。何でかナァ。やっぱ、エプスタインが「ウホッ!」だからとしか思えませんです。
つまり、ビートルズは、同時進行で録音した楽曲から、カヴァーとセルフ・カヴァーを「EP」に収めたのです。其れ程に「A HARD DAY'S NIGHT」を「最初のオリジナル作品集にするぞっ!」って明確なる意志が、間違いなく、ジョンには在りました。彼らが「スカ・ビート」を取り入れるのは1968年の「OB-LA-DI, OB-LA-DA」が最初と云われていますが、実際には此の楽曲です。1964年に、ジョン・レノンは既にジャマイカン・ビートを自作で試みていたのです。本人がしっかりと証言しているので、偶然ではなく、確信犯的に「レゲ(かつてはこう云ったもんだった)」をやろうとした事が分ります。一般的には1970年代になってからブームが起こったと思われている「スカ」及び「レゲエ」ですが、実は1960年代初頭にも英国でプチ・ブームになっていた様です。そーゆー最新のリズムに飛びつくのが「ジョン・レノン」と云う奇才でした。其れは、後に「前衛音楽こそがビートルズの進むべき音楽だっ!」と宣言し、在ろう事か「REVOLUTION 9」のシングル化まで構想したエピソードからも伺えます。(其れは「革新的」杉!)
只、ジョン以外のメムバーに「其処までの革新性を求めるのは酷な話」だったので、此の曲に関しては何だか妙なミドル部分になっているのでした。其処で聴けるのは、ジョンの志を理解したポールとの「スカ・ビート」に、全く対応出来ないジョージとリンゴの「8ビート」なのです。「レノマカ」と他の二人の「音楽的センス」には、此の当時には「絶望的な格差」が在ったと理解出来るのが、此の曲の「不可思議なミドル部分」でしょう。ソロになってからレノンは、此の「中間部をいきなりレゲエにする」と云う大胆過ぎる試みに、再度挑戦します。約10年後に再チャレンジした其の楽曲は「MIND GAMES」と云います。
複雑な展開の楽曲だったからか、モノミックスとステレオミックスを合わせて五回もやっていますので、ミックス違いの宝庫でも在ります。印象的なカウベル(リンゴが担当)の入り方に特に大きな違いが聴き取れますので、色々と聴き比べれば楽しいと思いますよ。此の「ミックス違い道」とは、あたくしなんか「老後の楽しみのひとつ」として考えている位に「愉快痛快奇々怪々な世界」なんです。そして、EPとして発表された4曲も発売後の6月22日にステレオ・ミックスが作られているのが興味深いですね。此れはアルバム「A HARD DAY'S NIGHT」用に行われたわけで、つまりEPの4曲もアルバム収録候補だったのだと思われます。此の日にビートルズはニュージーランドのウェリントンでコンサートを行っていて立ち会っていません。帰って来たビートルズが、いやさ、レノン・マッカートニーが、もっと云ってしまえばジョン・レノンがEP用のカヴァー曲を外してアルバム曲を決めたのかもしれません。
ちなみに、最も「老後の楽しみ」にしたい「ビートルズ音源」は、当然「ゲバ」ですよっ!ええ「THE GET BACK SESSIONS」の全ロールを、にやにやみあみあしながら「1/2〜1/31」まで順番に聴くわけよ。楽しいぞぉ。ま、あんまり「オススメ出来ない遊び」だけどね(ぼそっ)。でもね、「スカ」と「8ビート」が不格好に絡み合うってのが、其の「崩れた感じ」こそが、実は彼らを「永遠の美女」にしたのだと思う。一寸だけ、抜けてた方が好いんです。完璧なんて、有り得ないのよさ。ビートルズって「未完成」なんですよ。彼らには「完璧な作品」なんて皆無です。何処かが抜けているんです。マヌケなのよさ。
でも、其れこそが、実は彼らの「最大の魅力」なんです。
(小島藺子)
初出:「COPY CONTROL AGAIN」2008-7-8
REMIX-1:「COPY CONTROL」2008-10-8
(and this is REMIX-2 by 小島藺子)
初出:「COPY CONTROL AGAIN」2008-7-8
REMIX-1:「COPY CONTROL」2008-10-8
(and this is REMIX-2 by 小島藺子)
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