ノアの7・18東京ドーム大会は、6万2千人の大観衆を集めた。ま、固いこと云わずに、実際超満員だった。問題も多々在る。何より看板タイトル戦を、メーンどころかセミでもセミ前でも無い「只の第那奈試合」に組まざる得なかった点は、お先真っ暗を予感させる。役者が違うんだな。だが、今回は其れ以後の三試合が良過ぎた。特にセミとメーンは、久しぶりにプロレスを観た!と云う気にさせられた。
セミの「小橋 X 健介」では、10分近く「合わせて200発近く、お互いに逆水平チョップを交互に、ただただ打ち合う」と云う、「おまえらは莫迦か?」的な展開となった。しかも、初対決の莫迦ふたりは、馴れ合いでやっているんじゃない。お互いの胸板が、赤から紫へ、そしてどす黒く変色していくのだ。つまり、常識では考えられないことを、本気でやってるわけだ。多くのプロレス者も同じ気持ちだろうが、あたくしは「感動してしまった」。だって、美しいじゃないか。
辛口の高山が素直に賞賛してしまうほど、小橋と健介は「底抜けなプロレス莫迦やろー」だった。負けた健介は、あろうことか小橋と抱き合い、高山と握手し、花道では北斗、中嶋と抱き合った。場内は、なんと大「健介コール」だ。会場に居たら、あたくしは確実に泣いていたな。
しかし、あたくしが「ぐっと」来たのは、やはりメーンの「三沢 X 川田」だった。ハイキックで三沢の鼓膜を破るほど、えげつない攻めをした川田は、それでも負けた。其れが、ブック通りだなんて話をしたいんじゃない。
終盤、三沢は執拗にエルボーを撃つ。川田は崩れ落ちる。しかし、立ち上がる。何故、彼は立ち上がるのか?其れは「三沢のエルボーを受ける為」なのだ!!川田はもう攻撃が出来ない。なのに、何度も立ち上がって、三沢に顔面と胸を突き出すのだ。あたくしは、せつなくなってしまった。
セミの打ち合い同様、こんな不可解な攻防は、プロレス以外では有り得ない。でも、あたくしたちは、其の「不可思議な世界」に魅了されて「プロレス者」になったんじゃないか。こんなにも真面目に莫迦をやってしまう奴らを「八百長」なんて云っていいわけねーんだよ。
川田は「勝ちたかった」と云った。
其の言葉に、嘘は無い。あたくしは、プロレスを愛して来てよかった。
初出「COPY CONTROL」 (小島藺子)