nana.812.png

2009年04月22日

FAB4-032:MONEY(THAT'S WHAT I WANT)

The Complete Motown Collection ミュージック・ファクトリー


 w & m:JANIE BRADFORD / BERRY GORDY

 P:ジョージ・マーティン
 E:ノーマン・スミス
 2E:リチャード・ランガム(7/18、30)、ジェフ・エマリック(8/21、10/29)、A.B.リンカーン(10/30)
 録音:1963年7月18日、30日、9月30日
 MONO MIX:1963年8月21日、STEREO MIX:1963年10月29日、30日

 1963年11月22日 アルバム発売(「WITH THE BEATLES」 B-7)
 パーロフォン PMC 1206(モノ)、PCS 3045(ステレオ)


アルバムのラストを飾るのは、ジョンのお気に入りナムバー「マネー」です。オリジナルはタムラ・モータウンのバレット・ストロングによる1960年のスマッシュ・ヒットで、作者は後にモータウンの社長になるベリー・ゴーディで、此の曲のヒットが其の後のモータウン発展への足がかりとなりました。ゆえに、此の楽曲は「THE BEATLES」と「THE ROLLING STONES」の二大グループにカヴァーされたと云う、大変に珍しい人気ナムバーとなりました。勿論、他にも多くのカヴァーが在ります。ちなみに、あたくしのお気に入りは「THE FLYING LIZARDS 」によるヴァージョンで、其の後の「宅録人生」に決定的な影響を受けました。されど、矢張り、其の曲が「ジョンの愛唱歌だった」事で興味を持ったのです。

其のジョンも、1962年のデッカ・オーディションで歌い、さらには1969年に「プラスティック・オノ・バンド」名儀でのトロントでのライヴでも取り上げています。ゆえに、ピート・ベスト、リンゴ・スター、アラン・ホワイトの三人による太鼓と共演するレノンが聴けます。(当然ながら、チャーリー・ワッツによる太鼓も聴けますよっ!THE FLYING LIZARDS なんて、ダンボール箱を叩いてるんですよ。)アラン・ホワイト曰く、

「ジョンのバックで太鼓を叩いて、リンゴの素晴らしさが分った」

「金くれっ!」と「銭ゲバ」の様に絶叫するレノンに呼応して演奏もかなり荒削りなのですが、此処でもジョージ・マーティンのスタイリッシュなピアノが中和剤になっています。ともすれば、クラシック志向のマーティンとロケンロール・バンドであるビートルズは「水と油」だったはずです。しかし、彼らは奇跡的に融合しました。「WITH THE BEATLES」の聴きどころのひとつは、マーティンのピアノやハモンド・オルガンと云った「鍵盤楽器」です。此の頃から1967年までは、間違いなく、マーティンが「伍人目のビートル」でした。「EMI には、マーティンが居た。」此れは、歴史の「偶然」と云う名の「必然」でした。もしも、デッカ・オーディションに受かっていたなら、ビートルズはジョージ・マーティンと出逢えなかったのです。兎も角、お溢れで「ビートルズのプロデューサー」になってしまったマーティンは、僅かな期間を彼等と共にした段階で思ったでしょう。

「ツイテたね☆」と。

アルバム「WITH THE BEATLES」は構成的に前作アルバムである「PLEASE PLEASE ME」と全く同じです。「オリジナル:8曲」&「カヴァー:6曲」で、ラストも「ジョンの絶叫カヴァー」なのですが、アンサンブルにマーティンの鍵盤が加わった事と、シングル曲(其れが「SHE LOVES YOU」「I WANT TO HOLD YOUR HAND(抱きしめたい)」なのだよ!)をオミットした事で、実際には、たったの半年で大きく変貌した彼らが聴けるのです。「全曲新曲、大ヒット・シングル曲未収録!」と云う「アルバムはアルバムだろ?」って「レノンイズム」が、二作目にして既に出来上がっていました。

更に、モノクロームの美しいジャケットは、次作で映画のサントラでも在る「初期の大傑作」に繋がって行きます。当時の彼らは「モノクローム」でした。先を急げば、其れが中期にカラフルになり、真っ白になって、「ゲット・バック」しようとして頓挫し、「横断歩道を渡って去ってゆく」のです。余りにも「ドラマティックなバンド」です。其れが、たったの「那奈年間」で起こるのです。彼らがマトモにアルバムを出したのは、1963年から1969年までなのですよっ!たった那奈年で、彼等は10数枚のアルバムを遺しました。年間二枚と云うハイペースで、しかも「全て違ったコンセプトの作品集を連発した」のです。正に、彼等は「化物」です。

さて、噺を戻しましょう。データを見て戴ければお分かりの様に、此の楽曲はモノとステレオを別にミックスしたばかりか、ステレオ・ミックスを二回もやっています。ゆえに、明らかにモノとステレオでは違いがあります。モノを中心に考えていた当時の彼らには珍しく、此の曲に関しては圧倒的にステレオの方が「ど迫力サウンド」になっています。理由は、モノ・ミックス後にマーティンがピアノを追加録音(其の時、ビートルズは休暇で不在!)し、新たにステレオ・ミックスを行ったからなのだ。「泥沼のミックス違い道」へ進む覚悟がおありの片は、此の曲あたりから聴き比べてみては如何でしょう?但し、其の後の貴方の人生に関しての保障は、一切合切、致しません。

其れにしても、ジョンの歌うカヴァー曲は素晴らしい。此の楽曲も、明らかにオリジナルを超えてしまっています。オルジナルには無い歌詞を、ジョンはアドリヴで絶叫します。そして、此のひと言が、モータウンの「R&B」を「ROCK」に変えました。ジョンは叫ぶ。

「I WANNA BE FREE !」

そう、此れが「ROCK」だ。僕らは「自由」になりたくって、「ロックの人」になったのだから。


(小島藺子/姫川未亜)


初出:「COPY CONTROL AGAIN」2008-7-1
REMIX-1:「COPY CONTROL」2008-10-1

(and this is REMIX-2 by 小島藺子)



posted by 栗 at 00:15| FAB4 | 更新情報をチェックする