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2008年04月14日

「鬼の号泣」

最強格闘技伝説 [DVD]


佐山サトルは「天才」だ。昨日放映された「中邑 vs 棚橋」も「セーム・シュルト vs マーク・ハント」も、壱回見るのも苦痛に感じるほど退屈な試合で、速攻HDDから消去されました。なのに、四半世紀も前の佐山の其れは、未だに何度も繰り返して観てしまうのです。其れは決して「ノスタルジー」では在りません。単純明快に、佐山の方が断然に面白いのです。

「伝説の虎戦士スーパータイガー」には、奇妙な試合が幾つか収録されています。最もへんちくりんな其れは、最後の前田戦です。前田がセメントを仕掛け、佐山がプロレスで対抗した其の試合は、観客が水を打った様に静まり返っています。明らかに尋常ではない前田の本気度200%の攻撃と、其れを完璧な技術で防御する佐山の闘いに、マニアで知られた「U」のファンが「此れは唯事ではない!」と気付き、言葉を無くしてリングを凝視しているのです。

もうひとつは、未だ若手だった高田に負けてしまう試合が在ります。実はほとんどコンプリートに近く収録されている此の作品には、最も重要な試合が未収録なのです。いや、其の試合は未だかつて商品化されていません。1985・1・20 後楽園での高田戦で、佐山は左肩に物凄い量のテーピングをしています。実は、其の僅か四日前の 1985・1・16 大阪で藤原戦が行われたのです。其の試合こそが(おそらく余りにも凄惨で在るから)映像作品として残されなかった「幻の試合」なのです。

藤原は、前年12月の「ノー・フォール・ルール」で佐山に蹴り倒され続け惨敗しました。其の余りにも壮絶な試合は、当時「世界のプロレス(東京12チャンネル系)」で放映され、あたくしも観ましたし、当然DVD化されています。其れで藤原が「あのルールはキック主体の佐山に有利だ。今度はノー・ロープ・ブレイクにしろ!」と再戦を迫り、佐山が受けたのです。関節技の鬼にとって、相手がロープに逃げられなければこっちのもんです。果たして、藤原の目論見通りに完璧な関節技で佐山を捉えました。しかし、佐山はギブアップしなかった。遂に、藤原は佐山の腕を折ってしまったのです。

「俺は、仲間の腕を折ってしまった!」そう云って藤原はリングで号泣しました。四日後、佐山は折れた腕で高田と闘い、レフェリーストップで敗れたのでした。確かに「U」もプロレスです。でもな、

此れのどこが八百長なんだよっ!


初出:「COPY CONTROL AGAIN」 (小島藺子)



posted by 栗 at 12:08| KINASAI | 更新情報をチェックする