ジャイアント馬場さんは、ズルいです。
他のレスラーとおんなじ技なのに、馬場さんがやると、例えば只の前蹴りが「16文キック」になり、只のドロップキックも「32文ロケット砲」になっちゃうのです。他の必殺技だって「かわず落とし(足を掛けて倒れるだけ)」とか「ランニング・ネックブリーカー・ドロップ(走って首に腕を巻き付けて尻餅つくだけ)」なんて、他のレスラーだったら繋ぎ技に過ぎないもんばっかです。挙げ句に、関節技を極められててもフォールされても、デカイからすぐにロープに手足が届いてしまうのですよ。
猪木は、そんな馬場さんを心底憎んでいました。大体、馬場さんは練習なんかしませんからね。長州軍団が全日に上がっていた頃、現在はノアの小川が強くなりたくて一緒に練習していたら馬場さんに怒られたそうです。「お前、何勝手に練習なんかしてんだよ」と。練習の鬼である猪木の弟子だった長州軍団は「おいおい、全日じゃ練習すると怒られんのかよ」と失笑しましたとさ。
そんな馬場さんへの憎悪から、猪木は反則を必殺技にすると云う究極の手を思いつき、実行したのでしょう。原爆固め、コブラツイスト、卍固め、延髄斬り、アントニオ・ドライバー、など正攻法の必殺技も確かに在りますが、晩年になると「チョーク・スリーパー(反則の首絞め)」とか「怒りの鉄拳制裁(反則の拳殴り)」なんかがメインになります。「目突き」も「金的蹴り」も平気でやらかします。攻められて苦境から攻勢に出るきっかけは、全部「反則」です。小鉄が解説で「厳密にいうとですね、今のは反則です!」なんて実直真面目に云おうがお構いなしです。古館も辻も、実況なのに完全に猪木贔屓ですから、もーどーにもなりません。フルタチなんか、猪木が勝ったら「やった、やったぁーっ!」なんぞと絶叫しちゃうんですもん。「ハッキリ云って、新日贔屓だっ!」なんてトンデモ実況までしていました。
カウントダウンの頃に実況していた辻も、ずっと「猪木が、猪木が」と叫びまくるのです。誰と闘っているのかすら、実況だけでは全く分りません。其の頃の解説者であるマサ斎藤も「イノキさんはスゴイよ(はーと。」なんてことばっか云っています。何より、猪木自身が、すぎょい。試合後のインタビューで「此処は何処なのか分らない」とか「全然覚えてない」とか、本当に完璧な演技力で言い放つのでした。おいおい、、、
「覚えてないから反則もアリ」ですかっ!
そんでもって、負けると泣くんですよ。長州とかがやっと勝って主役になったかと思っているのに、「ちょーしゅーっ!」とか叫んで号泣しちゃうんです。勝った長州ではなく、負けた猪木をカメラは追い続け、実況アナも「猪木が泣いているっ!」と絶叫するのです。
猪木は、存在自体が「反則」です。「5カウント以内なら反則も合法だ」と偉そうにぬかすんですからね。其れは猪木の日常での「クリシェ」です。例えば、「エスペランサー」の披露宴でも「夫婦関係も、5カウント以内なら反則もアリです。」なんぞと「愛弟子:泣き虫」に祝辞で「浮気指南」していました。
つまり「5カウント以内なら反則は反則じゃないのだ」ってことなわけでして、そりゃそーなんだけど、普通はやらないんだよね。だって、「社長でエース」なんですから、馬場さんなら死んでもやりません。実際に亡くなるまで馬場さんは、そんな「理不尽」な、「手前勝手」な、ハッキリ云えば「究極の反則」なんて、絶対にやらなかったよ。
「でも、猪木はやるのです。」
初出:「COPY CONTROL AGAIN」 (小島藺子)